森記念財団がまとめている「日本の都市特性評価(Japan Power Cities)2022」が公表された。都市特性を表わす86指標をスコア化し、国内138の都市を評価しているものだ。通称「都市ランキング」と呼ばれるものは多種あるが、その中でも知名度が高く、各都市が注視しているデータだ。その中で、名古屋市のスコアとランキング結果はいかなるものか。2022年版(以下、JPC-2022)を基に名古屋市の課題とポテンシャルを紐解きたい。
1.総合スコアのランキング結果 -1位は大阪市、名古屋市は5位-
JPC-2022が取り上げている都市は、政令指定都市、都道府県庁所在都市、人口17万人以上の都市で、全国138都市を対象としている(これとは別に東京23区も対象としている)。愛知県では名古屋市のほかに、豊田市、岡崎市、豊橋市、一宮市、春日井市、安城市、豊川市が含まれている。
都市を評価するデータは、6分野で構成されており、各分野の中に指標グループ(全26グループ)があり、さらに細分化されて指標(全86指標)が体系化されている(図表1)。各データの多くは、国の統計が使用されているが、民間のデータや独自アンケートデータなども活用しながらデータ取得がなされている。
86指標のデータを一定のルールでスコア化し、指標グループごとに平均値を出し、その平均値を6分野の単位で合計して分野別評価スコアを算出している。さらに、6分野のスコアを合算したものが総合スコアとなっており、これによって分析対象都市がランキングされることとなる。
ランキング結果は図表2の通りで、総合1位となったのは大阪市であった。名古屋市は5位にランクインしている。大阪市は、経済・ビジネス分野と交通・アクセス分野で1位を獲得してスコアを伸ばした。経済・ビジネス分野のうち、高得点を出しているのは経済活動グループで、構成される指標(付加価値額、地域内総支出、昼夜間人口比率)の全てで上位スコアを得ていることが特徴だ。また、文化・交流分野では京都に次いで2位となっていて、観光客の受け入れ環境が良好であるとの結果となっている。
2位の京都市は、文化・交流分野で1位、研究・開発分野で2位を獲得してスコアを伸ばした。文化・交流分野は観光資源の豊富さが、研究・開発分野では大学研究機関の集積が評価された結果と解される。3位は福岡市で、分野別の1位獲得はないものの、各分野でまんべんなく上位スコアを獲得したのが奏功した模様だ。4位は横浜市。研究・開発分野と文化・交流分野の双方で3位を獲得しており、中でもSNSの発信実績で高得点を出している点が特徴と解された。
2.名古屋のデータを詳しく見てみよう -研究開発で高評価、環境で低評価-
名古屋は総合5位にランクインした。研究・開発分野で1位、交通・アクセス分野で2位を獲得したほか、経済・ビジネス分野で4位、文化・交流分野で6位という結果は、まずまずと考えて良いのではなかろうか。一方、環境分野は127位に沈んでおり、生活・居住分野(22位)とともに足を引っ張る結果となっている(図表3)。以下では、分野別のスコア結果について、もう少し詳しく見てみたい。
経済・ビジネス分野は4位となった。その内訳を見ると、経済活動と雇用・人材は高スコアであるものの、人材の多様性、財政で低スコアとなっている。人材の多様性を構成するデータは、女性就業者割合、外国人就業者割合、高齢者就業率だ。名古屋市では、女性就業者割合は確かに後進性があるものと推察される。外国人についても高度人材の活用は後進的だ。名古屋市の産業構造ではメーカーが多い事、本社立地が少ないことなどが影響を与えていると考えられる。一方、財政であるが、政令指定都市の中にあって名古屋市の状況は悪くないので、このスコアが悪いのはさほど気にする必要はあるまい。
研究・開発分野は1位となった。2位の京都市は大学の多さを背景とした研究集積が牽引しているようだが、名古屋市は論文投稿数、グローバルニッチトップ企業数、特許取得数からなる研究開発成果が牽引しており、企業主導型で高スコアを出していると解される。
文化・交流分野は6位。ハード資源、ソフト資源、発信実績でスコアが伸びず、京都市、大阪市、横浜市、福岡市、神戸市の後塵を拝する結果となった。ハード資源では観光地の数や景観街づくりへの積極度が低調、ソフト資源ではクリエイティブ産業従業者割合や文化・歴史・伝統への接触機会で低調になったと思われる。因みに、上位の横浜市や福岡市はこの分野の全ての指標グループでまんべんなくスコアを上げていることから、名古屋市としても課題認識を新たにする必要がある。
生活・居住分野は22位。但し、大都市に限って見ると名古屋市は福岡市に次いで2位のスコアとなっている。名古屋市は、大都市でありながら過密問題が顕在化しておらず、家賃も安いので、市民は住み良さを感じているはずだ。だから、本来この分野は名古屋市の得意分野としてスコアに表れてほしいところだ。ところが、足を引っ張っているのは安全・安心のデータで、交通時死亡者数の多さや、災害時の安全性(ゼロメートル地帯や南海トラフ巨大地震の恐れなど)がスコアを落としている。ここに原因があって22位となっているのは如何ともしがたいが、安全性を高めていく努力は引き続き必要だ。
環境分野は127位と大きく沈んだ。環境パフォーマンス、自然環境で足を引っ張っている。環境パフォーマンスの構成データは、リサイクル率、昼間人口あたりCO2排出量、再生可能エネルギー自給率だ。確かに再生可能エネルギーの導入は後進的だと指摘されても仕方あるまい。また、車社会だから運輸面でのCO2排出量も大きいとはずだ。次に自然環境の構成データは、自然環境の満足度、都市地域緑地率、水辺の充実度だ。ここで決定的なのは水辺だろう。そもそも名古屋市内に内水面は堀川、新堀川、中川運河などに限られていて、いずれも水質、親水性ともに高くない。この状況を打破していく努力は確かに必要だ。
交通・アクセス分は2位となった(1位は大阪市)。その内訳は都市内交通、都市外アクセス、移動の容易性で、このうち都市内交通のコアが伸び悩んだ。この分野も名古屋市の得意分野だから、2位という結果は納得できるものの、もう少しスコアが良くても不思議はないように思え、筆者の肌感覚からはややずれがある。名古屋市民の通勤時間が短く、渋滞が少ないので、都市内交通は評価されて良いはずだ。構成するデータに道路の広さや道路密度が入っていない点が影響しているものと考えられる。
以上から総括すると、本社機能の集積強化と女性活躍分野の創出、歴史・伝統への接触機会の増進、安全対策、環境対策などに名古屋市は課題があるとJPC-2022は示唆しているものと解される。
3.リニア開業後の名古屋は? -交通・アクセスと文化・交流で伸びるはず!-
リニア中央新幹線(以下、リニア)が開業した時の名古屋を想像しておきたい。リニアの開業で必然的にスコアが改善される項目は、交流量の増加と首都圏アクセスの高速化だから、JPC-2022に当てはめれば6位の文化・交流分野と、2位の交通・アクセス分野のスコアは座していても良化すると思われる。
問題は、リニアの開業を活用した戦略的取組(名古屋側の努力)による他の項目の改善だ。筆者がかねてから主張しているように、本社機能集積を強化すれば、多様な人材の登用機会は増進するはずだ。これを実現していくためには、都心部における再開発を促進する施策を講ずる必要がある。リニア開業に軌を一にして名古屋市内で胎動している今後の大規模開発は、名鉄本社の再開発計画と栄三越の建替構想ぐらいだ。これではリニア時代の名古屋の役割としては物足りない。名駅西口地区、金山地区、三の丸地区などに大胆な再開発を促し、首都圏から本社機能を移転できる受け皿を整備していくことが重要だ。その結果、名古屋市内の業種構造は多様化するだろうし、女性の登用機会も増進しよう。役員の数も増えるから、セントレア発のビジネスクラスの需要も増えるはずだ。名古屋市内の再開発機運を高めていくことが極めて重要だと筆者は考えている。
一方、市内の自然環境の改善にも取り組まねばならない。手っ取り早いのは、中川運河を環境資源として取り込むことではないかと筆者は考える。中川運河を広大な池と捉え、両岸の沿岸用地の返還を求めて緑地化するとともに、適度に収益施設等を配置していくことで、緑地率の向上と親水空間の充実につながろう。また、市内の公共交通の機関分担率を上げるためには既存の地下鉄・バスだけでは限界があるから、SRTをはじめデマンドバスの導入など、大胆かつきめの細かい交通モードの導入を強化していく必要がある。そうすることで自動車利用から公共交通への転換が進み、CO2排出量の低下へと直結していくはずだ。
こうした内発的な取り組みを行うことで、リニア開業後の名古屋は都市力を数段上げる事が可能になるはずだ。その際には、JPC-2030で3位以内に躍進することも十分に可能だろう。1位だって夢ではあるまい。JPC-2022を拝見したことで、筆者の名古屋市発展への期待は更に高まった。