明治42年(1909年)に整備された鶴舞公園は、名古屋市民なら誰もが知る歴史ある公園だ。ほぼ全域が国の登録記念物に指定されていて文化財としても名古屋の貴重な財産だ。この鶴舞公園でPark-PFIが実施されることとなり(vol.20ご参照)、応募者の中から選定された矢作地所グループによる計画案がこのほど認定された(令和4年1月14日公表)。Park-PFIの導入実施は全国で取り組まれているが、鶴舞公園は文化財である点で全国の事例の中でも珍しい。筆者は、この聖なる公園(鶴舞公園)のPark-PFI事業者選定委員会に委員として参画したのだが、この事業のポイントを整理しておきたい。
1.Park-PFIの枠組み -その仕組みと狙い-
平成29年(2017年)に都市公園法が改正されて創設されたPark-PFIは、都市公園の中に民間事業者による収益施設の設置を許可し、これによる収益の一部を公園整備に還元する制度である。都市空間において貴重な緑を提供するとともに、市民の憩いの場になる都市公園は、放置すれば空地ともいえるような空間になってしまう。公園は使われてこそ市民生活に潤いを与えるのだから利用を促進すべきであるという認識に立ち、Park-PFI制度が創設された。利用を促すにあたっては、公園内に飲食施設等の設置を許可して賑わい創出と快適性の向上に繋げ、ここでの収益を公園整備費等に還元する枠組みとなっており、利用促進と財政負担縮減の一石二鳥を企図した制度だ。
Park-PFI制度では、収益施設を「公募対象公園施設」と呼び、公共が整備したい公園施設(園路、芝生広場、遊具、駐車場など)を「特定公園施設」と呼ぶ。また、看板等の「利便増進施設」を自主提案して設置することもできる。民間事業者は、公募対象公園施設を提案して整備するとともに、特定公園施設の整備費の一部を負担する。供用後は、公募対象公園施設を運営して来訪者にサービスを提供するとともに、その収益の一部を公園の保全・修繕費用に充当することとなる。運営期間は20年で、その期間は公園の指定管理者(維持管理を担う者)を兼ねることが一般的だ。
応募する民間事業者は、公募対象公園施設として如何に魅力的な収益施設を誘致・整備するか、特定公園施設の整備費等をどこまで負担できるかなどを競うこととなる。この際、公募対象公園施設を設置できるエリアが限定されるのもPark-PFI制度の特徴の一つで、これは個々の公園の特性によって行政当局が判断して設定することとなっている。鶴舞公園では、正面南エリア(正面広場と鶴舞中央図書館の間のエリア)、秋の池エリア(名大病院側に面するテニスコートの東側のエリア)、熊沢山エリアの3カ所に公募対象公園施設の設置を許可することとされた(図表1)。噴水塔や奏楽堂など鶴舞公園にとってなくてはならない数々の歴史的施設をはじめ、森や池など公園を構成する重要な要素はそのまま活かすことが規定されている。
2.鶴舞公園の認定計画の概要 -3つのエリアに多彩な魅力づくり-
Park-PFI事業者として選定された「鶴舞公園整備運営事業共同事業体」は、矢作地所が代表企業となり、電通名鉄コミュニケーションズ、ハヤギ緑化、日比谷花壇、ホーメックスで構成される企業グループだ。これらの構成企業が自社の得意領域を担当して鶴舞公園の整備と維持管理運営にあたることとなる。
提案された整備運営コンセプト(図表2)では、多様な利用者を想定し、誰もが気軽に立ち寄り憩える公園となることを標榜している。
次に、3つの公募対象公園施設の募集エリアで認定された計画を以下に紹介する。図表3は正面南エリアの整備イメージだ。ここは「様々な人々が集い、交流できる賑わいの拠点となる空間」と位置付けられ、鯱ケ池の名残りを活かしつつ、広場空間を囲むようにカフェ、洋菓子店、レストラン、コンビニ、体験学習施設などの整備が計画されている。同時に、特定公園施設として園路、芝生広場、遊戯施設、テーブル、ベンチ、トイレなどが整備される。
図表4は秋の池エリアの整備イメージで、ここは「秋の池に面する自然と芝生広場の解放感を感じられる空間」と位置付けられている。カフェ、レストランを設置するとともにテラス席などを設け、池や緑を眺めながらゆったりと過ごせる空間の創出が企図されている。整備される特定公園施設は園路、芝生広場、休憩所、授乳室、資材置き場、倉庫などだ。
そして図表5は熊沢山エリアの整備イメージだ。ここは「小高い立地からの眺望が楽しめる新たな集客の拠点空間」と位置付けられ、眼下の竜ケ池や胡蝶ケ池などを眺められるカウンター席をはじめ東屋やスロープ、イベント広場等を整備することとしている。このうち、東屋が公募対象公園施設に当たり、その他は特定公園施設として整備される。
計画案が認定(R4.1.14日付)されたことで、矢作地所グループは詳細の設計に着手することとなり、R4年7月頃に3つの整備エリアで着工し、R5年4月頃に完成する予定だ。供用後は、年間約230万円程度が公園内の歴史的建造物等公園施設の保全修繕費用として還元される。また、利用促進を図るために、事業者がイベントを企画して実施することも計画に盛り込まれている。
3.鶴舞公園での提案競技の論点 -評価されたのは多様性、課題は文化財との親和性-
鶴舞公園は名古屋市における第1号の都市公園であって110年を超える歴史があり、公園のほぼ全域が文化財としての価値が認められていることなどから、公園を管理している名古屋市緑政土木局では「聖なる公園」として位置付けられている。そして、名古屋市民であれば誰もが知っている有名な公園である。
この公園にPark-PFIの導入が企図された理由は、市の象徴的な公園であるがゆえに、①さらに多くの市民や市外からの来訪者による利用をより一層に促したい事、②その収益から公園管理への資金還元を求めたい事である。これをもう少し具体的に表現すれば、①特定の人ではなく多様な人々による日常的な賑わいを今以上に増進する事、②一定以上の収益力がある飲食店等の誘致を図る事、となる。
つまり、消費単価が高く収益力が大きな店舗の誘致をしても特定の利用者向けの施設は好ましくなく、一方で多様な利用者が期待できても緑の保全等を意識しすぎて収益性が低い施設も好ましくないという選定姿勢が必要だと筆者は解した。矢作地所グループの提案は、このバランスに上手く応えていて、誘致店舗には多様性があって収益性が見込まれ、企画されたイベントも多彩であった。こうした点が当局の意向に最も適合していたのである。
一方、課題もあった。鶴舞公園は歴史性のある文化財であるから、計画時の設計意図を保全・継承したものでなくてはならない。公園の軸線を保全することはもとより、大径木などの植栽を尊重するとともに、設計時の公園の意匠をよく理解した親和性の高い建築計画とすることなどが求められた。このため、選定後もこうした点に配慮して適合性を高めるように計画の修正を求めた。今般、認定された計画は、こうした課題に対応した計画になっていると理解している。短期間に協議を重ねた行政当局と事業者による鋭意の努力に敬意を表したい。
PPP/PFIはいずれの事業でもそうだが、個別の課題や目標としている命題がある。これらを理解し、Park-PFI導入に込められた狙いをいかに汲み取って提案に反映させるかが勝敗を分ける。行政側は、この点が理解されるように説明を尽くすことで、より良い提案が受けられるよう促さねばならない。同時に応募企業は、PPP/PFIの導入によって行政当局が何を成したいかという事業に課せられたミッションを明確に読み解いた上で、ソリューションとしての提案を構築することが勝利への道程となる。
ミッションの理解と提案されるソリューションがかみ合ったとき、Park-PFIを含むPPP/PFI事業は、民間企業の知恵と努力によって素晴らしい事業へと昇華していく。鶴舞公園で認定された計画は、名古屋市緑生土木局の企図する事柄と矢作地所グループによる提案がかみ合う計画まで辿り着いた。今後は、聖なる公園の新しい魅力発揮に向けて、施設運営とイベント開催などによる賑わい創りへの効果的な実践がなされ、鶴舞公園の魅力が更に高まることを大いに期待している。栄えよ、鶴舞公園!