Vol.234 津島市シビックプライド醸成拠点の計画が概成  -市民・来訪客が津島市に思いを寄せる拠点に-

津島市シビックプライド醸成拠点は、「DB+指定管理」方式でR6年9月に公募され、丸善雄松堂㈱を代表企業とするグループを選定後、計画内容の協議が続けられてきた。このほど、計画が概成して施設の愛称も決定し、R8年4月の開業に向けて着実に進捗している。事業の狙いは、市民や来訪客が立ち寄り、言葉を交わし、情報を得るとともに、自らの活動拠点とする事などを通し、津島市を自分の舞台として思いを深める事にある。

1.事業者選定の舞台裏  -4グループの競合による攻防-

R7年1月に行われた事業者選定では、4つの企業グループの提案内容が審査された。建設単価の上昇などを背景に公共事業で不調・不落が続出している中で、4グループの応募は競争環境が活性化したと評して良いだろう。その背景には、丁寧なマーケットサウンディングと正確な予算措置がなされていたことが奏功したと思われる。

選定委員会で委員長を仰せつかり審査に臨んだ筆者は、各グループの提案内容に各々の特徴を感じ取った。あるグループは、旧いちい信金の建物にダイナミックな改修を施し、象徴性の高い外観が建築デザイン面で高評価を得た。また、別のグループは、市民や来訪者の交流を促すコーディネータとして強い意気込みを示し、指定管理者として高評価を得た。いずれも、特定の項目で優れた提案が評価された。一方、残る2グループは、当局の狙いと地域の状況を良く把握した上で、いずれの項目でも得点を重ねた。特に、市民と来訪者が立ち寄りやすい内容を計画していた点で共通しており、中でも丸善雄松堂グループは全体を通してきめの細かい提案が評価されて最優秀事業者として選定された。

設計、建設、運営という多岐にわたる領域で構成される事業方式では、総合的に評価される提案が選定への王道であり、本件でもそうした傾向が如実に表れた形だ。

2.市の狙いと計画内容  -旧いちい信金、観光交流センター、パティオで構成-

津島市は、天王社の頂点である津島神社が有名であるが、寺密度が高い事でも知られる歴史的な都市であるとともに、戦後は繊維産業で栄えた西尾張地域の拠点都市である。しかし、1970年代に繊維産業が陰り始めると津島市の経済は停滞し、その後は人口も減少へと転じて今日に至っている。往時の津島市の目抜き通りであったのが津島駅から津島神社へと延びる天王通だが、現在はシャッター通りとなっている。

計画地はこの天王通に面しており、津島駅と津島神社との中間に位置している。寺社が数多く分布する本町筋と交差する地点でもあり、津島市にとって重要な資源(駅、津島神社、本町筋)を繋ぐ場所に立地している。市は、旧いちい信金の土地建物を譲り受け、隣接する観光交流センター(国の登録有形文化財)と一体的に整備する事を計画した。

津島市民が気軽に立ち寄って情報交換をしたり、市民活動の拠点とする場所にするとともに、観光客等の来訪者が本町筋への散策途中に立ち寄って休憩したり情報収集する場所にする事で、津島市を自分の舞台として思いを寄せる拠点となるよう企図したものだ。

丸善雄松堂グループの提案では、天王通に面する旧いちい信金に大きな開口部を設けて飲食空間(カフェ)を整備し、市民や来訪者が立ち寄り易い空間を計画した(図表1)。ここでは、抹茶、抹茶ラテなど各種ドリンクが提供され、テイクアウトも実施する予定だ。津島市は抹茶文化が歴史的に根付いている都市だが、一般に提供される機会は少なく、この拠点で抹茶に光を当てる狙いがある。

津島市が特徴的な仕掛けとして位置づけているのが、旧いちい信金の裏手にある駐車場跡地だ。観光交流センターとも往来できる動線を確保し、ここを「パティオ」として整備して散策する人々が路地に迷い込んで滞留する事を企図している。

施設内における市民のアクティビティが活性化する事も重要であるが、散策中に落ち着いた空案で憩う事が出来る事にも重きを置いている。施設内の交流とパティオでの滞留を促す事が、シビックプライド醸成への道と市当局は計画した。民間のノウハウを活用してこれを実践する事が当該事業のポイントである。

丸善雄松堂グループでは、天王通川のカフェでは食事の提供はしない事が計画の特徴でもあるが、これは、現状の津島市の市場性を勘案したもので、パティオにキッチンカーを誘致して補完する計画とした。

この点は審査段階でも論点となったところだ。施設内で食事を提供するという提案が他グループからはあった中で、総合力で評価された丸善雄松堂グループは食事提供を提案していない。天王通の現状は厳しく人通りは少ない事から、現実を直視してフードをキッチンカーでの提供にすると計画したもので、経営の安定性を考慮した提案と解された。

開業後に当該施設の存在が定着し、利用者が増進した暁には、食事の提供も検討して頂きたいと願うが、現実的な計画として評価して良いだろう。当初計画を契約期間中に縮小するよりは、契約期間中にサービスを充実強化できるポテンシャルに期待したいと評価した次第だ。

3.開業への期待  -愛称も決定。津島市の新しい集い処に-

津島市の都市計画的な課題は、天王通を軸に都市機能が更新され、夜間人口の定着と交流人口の増進へと進展させていく事だ。日本全体が人口減少期にある中で、津島市の人口を反転させていく事は容易ではないが、名古屋圏はリニア開業を控えており、母都市である名古屋市のポテンシャルは向上していく可能性がある。従って、名古屋市の発展との連動を意識した都市計画を策定する事は都市経営として重要だ。

シビックプライド醸成拠点の整備は、津島駅⇔本施設⇔津島神社という拠点連携を企図している。その背後にあるのは、名古屋市との連携だ。津島市は名鉄名古屋駅から33分であるから、名古屋駅を中心とした時間同心円上で名東区藤が丘と等時間距離に位置している。名東区の平均地価が82.13万円/坪であるのに対し、津島市は20.47万円/坪であるから、名古屋駅との関係では明らかにお値打ちだ。

しかし、ブランディングにおいて大きな開きがあるのも実情であるから、この格差を埋めていく努力が必要だ。そのためには、津島市固有の資質である歴史的資源を活かしたシビックプライドを着実に醸成していく事は有効と思われる。名古屋圏における居住地選択や交流地選択において津島市が選ばれる都市となるべく戦略を描いているのが現在の津島市都市計画マスタープランであり、当該事業はその一環に位置づくものである。

R8年4月に開業が予定される当該施設は、市民公募により愛称も決まった。施設全体は「つしまクロス」、旧いちい信金は「てんのうぴあ」、パティオは「みなくるパーク」と命名された。これらの施設に津島市民が集い、来訪者が散策途中に立ち寄り、津島市内外の人々による新しい集い処となってシビックプライドが醸成されていく事を期待したい。

この事業をサウンディングを含む計画段階から公募、事業者選定、契約協議に至るまで一貫して担当したのは女性職員の山本さんだ。市役所幹部と事業者の間に立って種々の板挟みを乗り越えたようだ。無事の開業を祈るとともに、津島市が描いた戦略の実現に向けて「てんのうぴあ」が着実に機能していくことを願っている。

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