Vol.150 第6回中京都市圏パーソントリップ調査にみる驚きの変化  -車王国の中京都市圏で初めて自動車の分担率が減少-

2023年11月30日に第6回中京都市圏パーソントリップ(以下、PT)調査の集計結果が発表された。PT調査は、「人の移動(=パーソントリップ)」を詳細に調べる10年に1回の調査で、都市圏別に実施されている。今回の中京都市圏PTでは、様々な変化が起きた。中でも総トリップ数の減少と、中京都市圏の最大の特徴である自動車利用の減少が注目される。今回のPT調査結果が示唆する潮流は何だろうか。

1.中京都市圏の総トリップ数が大きく減少  -三大都市圏の中で際立って減少率が大きい-

人流を対象とするトリップとは、人々が特定の目的で発地から着地まで移動する行動を1トリップという単位で捉える考え方だ。1日のうちに、会社に出勤し、営業で外出し、自宅に帰宅すれば、3回のトリップを行ったと表現される。そして、各々のトリップについて、代表的な交通手段を把握するというのがPT調査の概要だ。

都市圏単位で実施されるPT調査は、全国の65都市圏で述べ148回実施されており、東京都市圏、近畿圏、中京都市圏(三大都市圏)では最多の6回目の調査が行われている。実施時期は都市圏によって異なるが、中京都市圏では2022年10月から11月の間の平日1日を対象とし、新型コロナ感染に対する緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の期間外に実施され、このほど集計結果が公表された。

集計結果概要によると、総トリップ数が前回調査に比して17%減少した(図表1)。前回調査では微減傾向だったものが、大きく減少したことが第一のトピックだ。他の三大都市圏でも減少しているが、東京都市圏で13%減、近畿圏で14%減であったから、中京都市圏の減少率が際立って大きい。

第6回の調査時点では、中京都市圏の人口は微増しているので、総トリップ数の減少は人口減少によるものではない。大きく寄与しているのは外出率の減少にありそうだ。図表2は中京都市圏PTにおける外出率の推移を示しているが、今回(第6回)調査では74.1%と大きく減少している。外出率は高齢者ほど低いのが基本であるが、今回は20~24歳の若者層の外出率が大きく減少したことが報告されている。

従って、高齢化の進展に伴って外出率は減少するという基本傾向に加えて、今回はコロナ禍が産み落としたリモートスタイルの定着により若者層を中心に外出率の減少を引き起こし、これが総トリップ数の減少に拍車をかけたと概括される。

中京都市圏よりも先行して実施された第6回東京都市圏PT調査(H30実施)では、コロナ禍前の実施であったにもかかわらず総トリップ数が13%減少し、これに関する補完調査が行われた。図表3は、2008年から2018年の10年間の仕事の仕方の変化で、「対面での打ち合わせからWeb、テレビ会議へ」21%が変わったとし、「書類やデジタル商品の持参・納品からメールなどでの電子送付・納品へ」29%が変わったと回答した。

また、図表4は買い回り品の買い物スタイルについて同様に調査した結果で、「実店舗で購入」と答えた人は2008年で78%であったものが2018年では58%に減少した。同時に「ネットショップで購入」や「店で商品を確認後ネットで購入」の割合が倍増している。

こうした補完調査結果を踏まえ、東京都市圏では2008~2018年の間に移動を伴わない仕事や買い物の機会がコロナ禍前から増加しており、DX社会の進展による外出率の減少が総トリップ数の減少に結び付いたと考察されている。

この、コロナ前に実施された東京都市圏の動向を踏まえると、コロナ禍後に実施された中京都市圏PTでは、一層にDX社会が進展し、外出機会が減少した結果だという仮説が立てられよう。

各交通機関の利用者数の実態調査を見ると、鉄道・バス共にコロナ禍前の利用者数に戻りきっていない。これは、コロナ禍の影響でリモートスタイルが進展したことに加え、出控え現象が残っているとことによるものと解されている。中京都市圏PTの総トリップ数の減少は、DX社会の進展に加えて、コロナ禍の後遺症として残る出控え現象の両面から生じた結果だと総括できそうだ。但し、DXの潮流は今後も進展していくことは間違いないと考えられるから、本格的な人口減少とも相まって総トリップ数の減少は今後も続くと考えるべきだろう。

2.交通手段分担率の変化   -業務目的が半減、自動車利用が減少に-

代表交通手段の分担率についても大きな変化が起きた。これまで中京都市圏PT調査では、交通手段における自動車利用の割合の高さが最大の特徴として報告されてきた。図表5は、中京都市圏PTにおける交通手段の分担率の推移を示している。年々増加傾向にあった自動車の分担率は、前回(第5回)調査では61.4%にまで達していたが、今回(第6回)調査では初めて減少に転じ、54.9%となった。約20年前の第4回調査を下回る水準である。

他の2大都市圏の分担率を図表6との間で比較したい。自動車の分担率について見ると、最新の調査結果では東京都市圏で27%、近畿都市圏では31.4%であった。いずれの都市圏よりも中京都市圏の自動車分担率は依然として高いのであるが、増加傾向から減少傾向への転換は大きなトピックである。

中京都市圏では、自動車分担率が減少した一方で、徒歩の分担率が前回調査の14.4%から今回調査では16.8%に増加した(図表5)。しかし、公共交通の分担率は鉄道とバスを合わせて12.1%にとどまっており、前回調査と変わっていない(図表5)。これに対し、東京都市圏では公共交通の割合が36%(増加)、近畿圏では24%(微増)となっている一方で、徒歩の割合はいずれも23%で変化はほとんどない(図表6)。

中京都市圏では、減少した総トリップ数の中で、特に減少したのが名古屋と往来する放射方向のトリップ数が減少したと報じている。従って、名古屋と郊外都市を結ぶ往来において自動車交通が減少した可能性がある。また、近場の移動においては、自動車から徒歩に転換したという可能性も考えられよう。いずれにしても中京都市圏においては自動車依存の傾向は残っているものの、移動スタイルに変化が萌芽している可能性がある。

3.PT調査結果が示唆する潮流   -移動と通信を使い分ける時代に-

中京都市圏PTの集計結果により、三大都市圏のPT調査結果が出そろった。いずれの調査結果にも共通しているのは、総トリップ数の減少と外出率の減少だ。DX社会の進展によって、仕事でも買い物でも移動を伴わない行動機会が増加していることが背景にあるものと考えられる。この結果、道路混雑は緩和される方向にあり、各個人は移動時間が減少して自由時間が増加するため時間的ゆとりが生まれているものと考えられる。これはQOLの観点からみれば望ましい現象だ。

但し、東京都市圏PTの補完調査によると、地域別には交通利便性の違いによって差が生まれていると報告している。交通利便性とは、運行頻度の高い公共交通(鉄道・バス)が利用できる地域であること、自由に使える自動車を運転できることを指しており、これら双方の条件を持っていない人は交通利便性が低い状況にあるのだが、交通利便性が低い人ほど外出率が低い傾向があるという。また、トリップ数の分析からは、交通利便性が低い人ほど余暇行動が少ない傾向も指摘されている。

これらの指摘は、社会全体のトリップ数や外出率が減少する中で、交通利便性が低い人に行動制限が集中する可能性を示唆している。QOLの観点から考えれば、移動から解放されてゆとりにつながる人々がいる一方で、移動できずに高いQOLを享受できない人々が共存する二極化した社会となる可能性があるという事だ。

また、自動車の分担率が減少傾向にあるが、今後に向けては自動運転やシェアリングサービスの進展が見込まれており、その展開によっては道路交通負荷が再び増えて混雑が発生する可能性も否めない。

中京都市圏では、減少には転じたものの依然として自動車の分担率が高く、公共交通の分担率が低い状況にあるため、名古屋を中心とする放射方向の移動については公共交通の利用促進が必要だろう。一方で、都心の駐車場は余剰となるため、土地利用の高度化を進める好機が訪れつつあると考えて良い。歩く人が増えているので、ウォーカブル戦略の推進は時宜を得ていると考えて良いだろう。合わせて利用の減った駐車場を種地とする再開発の推進に結び付けたいところだ。

PT調査は交通行動を知る重要な機会だ。交通行動から見える社会変化の示唆を踏まえ、魅力的な都市づくりに結び付ける議論が活性化することを期待したい。

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