Vol.10 行革はコスト改革から地域経営改革への転換を -地域循環型経済構造の確立に向けて―

1.行財政改革の歴史  -予算と人の削減は限界に-

我が国における行財政改革(以下、行革)の歴史は長い。本来の行革の意図するところは、行政の組織や機能を改革して、効率良く成果を上げる体制にするためであるが、実際の改革の中心は「行政の無駄をなくす」ことを主眼とし、「節約」につながる改革が行われてきた。行き着くところは予算と人の削減となるわけで、行政内部の側からすると、痛みを伴う改革であるから、行革の歴史は行政組織の抵抗の歴史と見ることもできよう。

国の行革の歴史で忘れてならないのは「第二次臨時行政調査会(1981年設置)」、通称「土光臨調」で、若輩だった筆者の記憶にも残っている。オイルショックで傷んだ日本経済と赤字財政を立て直すため、「増税なき財政再建」を掲げ、赤字国債をゼロにすることや、官業民営化(国鉄の分割民活民営化、日本電信電話公社・日本専売公社の民営化)など、当時としては大胆な改革が提言され、以後の我が国の「小さな政府」への路線転換の先鞭となったと受け止めている。

地方自治体でも、累次に亘って行革プランを策定して取り組みを続けてきており、地方の行革の歴史も30年余に突入してきている。本庁における機構改革や事務事業の見直し、外郭団体の改革と統廃合などに取り組み、多くの自治体が成果を上げてきた。但し、その成果は予算と人(行政職員)の削減に表れる成果であるから、成果指標は金額であらわされることが多い。重ねられた行革によって、地方自治体では組織のスリム化が進み、予算もゼロシーリングはおろか縮減を重ねてきたため、今では予算と人を削ることは限界に近いと筆者は感じている。

それでも地方自治体の財政状況は厳しい。経済の低成長が続き、人口が減少に転じたため、税収の停滞もしくは漸減傾向が定着している一方で、超高齢化社会の到来などを背景に扶助費は増加の一途を辿り、今後は古くなった社会資本の更新費用が莫大に圧し掛かることが予想されるため、地方自治体の財政は火の車といったところだ。まさに、地方自治体の経営は厳しさを増しており、「行革はもう終わった」などと言えるものではない。しかし、従来型の行革の成果(予算と人の削減)では、乾いた雑巾を絞るが如くの状況で、限界点に到達しようとしているわけだから、今後の舵取りを抜本的に見直していく必要性が早急にあるように感じられる。

2.税収を上げる経営戦略が必要  -コスト改革から経営改革への転換を-

民間の場合でも、売り上げが伸びない時はコストを切り詰めて利益を捻出する事に必死に取り組む。赤字を出し続ければ株主が離れ、資金調達も困難に陥って行くためだ。しかし、こうした減収増益を繰り返していると、組織の活力はしぼみがちとなる。賃金が抑えられ、自社への投資が削られ続ければ、社員の元気が出ないのも当然だ。従って、経営者は増収増益へと反転攻勢することに乾坤一擲の努力を重ねるわけだ。新規マーケットの開拓やビジネスモデルの転換、或いはイノベーションへの取り組みなどに会社を上げて取り組むよう旗を振るわけで、こうした努力が企業に真の成長をもたらすこととなる。

地方自治体でも同様の発想が必要だと筆者は考えている。つまり、トップライン(財政収支の一番上の行の数字=税収)を上げる経営戦略が必要だと思っている。筆者は、行革の議論に外部有識者として長く携わってきているが、そこでの議論はコスト改革論議に終始しており、トップラインを上げるための議論は土俵の外として扱われることに違和感を禁じえなかった。しかし、財政運営を取り巻く環境が厳しさを増す中で、コスト改革が限界域に達している以上、トップラインを上げる経営改革へと舵を切ることが今こそ必要だと思うのだ。つまり、コスト改革から地域経営改革への転換が求められている。

一部の自治体では、行革のアウトカムをコスト削減から生産性の向上へと転換を図っている。筆者が議論に参画した愛知県はその代表例だ。DX時代へと突入し、働き方改革が求められている今日、行政が生産性に目を向けることは誠に時宜にかなっていると思う。従来型の行革から脱皮を図ろうとする姿勢に敬意を表したい。そして、その一歩先にあるのがトップラインを上げる経営改革なのだと筆者は考えている。

3.地域経営改革のアウトカムは市民所得の向上だ  -地域循環型経済構造の確立へ-

トップラインを上げることを達成するためには、当該自治体の企業や個人の所得が上がることを目指さねばならない。つまり、地域経営改革のアウトカムは市民所得(企業も個人も)の向上だと考える必要がある。

市民所得が向上していくためには、稼げる企業の立地・集積、域内取引の増進、地産地消の活性化などが必要だ。地域にとって稼げる企業とは、雇用を生み、税収(固定資産税、法人市民税等)に貢献する企業であるが、当該事業所から発生する利益が域外の本社に吸い上げられる構造だと理想的な稼げる企業とは言えない。理想的には本社が立地する事だ。しかし、事は容易ではないから、次なる狙い目は、稼げる企業からの取引が域内企業に数多く発せられることだ。つまり、核となる企業を中心に産業クラスターが形成され、取引の連鎖が地域内で生じることにより、稼げる企業からの経済効果が域内に波及することが望ましい。そして、地産地消も重要だ。地域で生産されたものが地域で消費されれば、所得の域外流出が抑えられて、市民所得の向上に直結するからだ。この観点からすれば、観光などの交流産業を振興する場合でも、来訪者に域内からサービスや商品を提供する仕組みを組み込むことは重要な事である。

改めてであるが、本社機能が増えることは市民所得の向上につながる。賃金が高い人材が集積し、域外で得た利益が帰着するためだ。このためには、他地域からの本社移転を誘致する他、スタートアップ企業の育成やイノベーションの振興も含めて取り組みを構えて行く必要がある。また、R&D機能は本社からの投資を誘引できるため、域内所得の向上に貢献するし、高度人材が集積するため望ましい。高度人材の集積は、域内取引を活性化させるほか、地域の担い手としての活躍も期待できるからだ。クリエイティブ人材への関心が高まっているが、SDGsネイティブ人材も含めてこれらも同様に歓迎すべきことだ。

このように、自地域内での取引を生み増やす力を大きくし、域内で経済が連関していくクラスター形成などを進め、高度人材が集まるような産業機能の誘致に力点を置くことで、市民所得は総体として向上し、結果的に税収増加につながっていく。これが地域循環型経済であり、これを目指す改革プランが地域経営改革だ。無駄を根絶する改革は必要だ。生産性を上げる改革にも賛同する。それらに加えてトップラインを上げる改革に取り組むことが、地方を輝かすための自治体の役割だと筆者は思う。

尚、こうした地域循環型経済の確立を目指す際に、再生エネルギーの活用も念頭に置きたい。再エネ電力を地域から安く供給することが出来れば、企業側は固定費が安くて済むから利益を生みやすく、企業誘致に有利に働き、結果的には市民所得の向上につながる。また、再エネを含め、設備投資に地域金融機関の資金が充てられれば、これも地域循環型経済として機能する。こうしたことを大きくマップに描いて、地域経営改革を行えば、人口減少に直面したとしても、地域経済を持続的に成長させていく自治体は存在し得ると筆者は考えている。

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