Vol.130 尾張津島「天王祭」復活に考える祭りの経済学  -経済効果のストック化を企図したい-

2023年7月22日~23日に尾張津島「天王祭」が6年ぶりにフル開催された。宵祭りを訪れてみると、おびただしい数の屋台が立ち並び、歩く人や腰を下ろす人で大変な賑わいが天王川公園に繰り広げられていた。一般市民や関係者の顔には、自粛ムードを脱出した安堵感と伝統祭復活の喜びが滲み、まちはひと時の幸福感に包まれていた。これを機に、久しぶりの大型祭が示唆する津島市発展への課題を考えてみたい。

1.新世代の天王祭が幕開け  -Park-PFI事業者の仕切りによる初めての開催-

台風や大雨の襲来で2年連続中止を余儀なくされた後、コロナ禍の発生で自粛が続いた天王祭は、実に6年ぶりの通常開催に戻った。この間に、祭りの舞台となる天王川公園は大きな転換期を迎えていた。それは、天王川公園Park-PFI事業が実施され、スターバックスコーヒーや新しい広場などが整備されたと同時に、指定管理者がPark-PFI事業者に交代したのである。そして、このPark-PFI事業者には、天王祭の仕切りを行う事が求められており、これまでとは異なる体制で迎える祭りでもあった。Park-PFI事業者の代表企業は大和リースだが、祭りの仕切りを担う中核企業は岩間造園である。

これまで観光協会が全てを仕切ってきた祭りの運営は、多くの部分をPark-PFI事業者へと引き継がれることとなり、桟敷席の整備、駐車場の管理・運営、屋台の出店者管理などをPark-PFI事業者が仕切ることとなった。天王祭は津島神社の祭礼でもあるため、津島神社との調整も生じるほか、交通規制や周辺地域への配慮などは行政機関との調整もあり、仕切る業務の範囲は広い。但し、伝統行事であるために慣習によるところが大きい部分は観光協会の役割として残された。Park-PFI事業者と観光協会という新しい体制で臨んだ最初の祭りだったのである。

2.見事に復活を遂げた尾張津島「天王祭」   -伝統は生きていた!-

600年の歴史を持ち、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている天王祭の中心は五隻の巻藁船(まきわらぶね)で、市内の地区で船が継承されている。巻藁船の組み立てと操船も地区の人々が行うのであるが、担い手が高齢化していることもあり、休止が続いた5年間の間にノウハウが途切れてしまうのではないかと懸念されていた。昨年は、今年のフル開催を願いながら観客無しで練習を兼ねた出船を行うなど地域は伝統継承に努めてきたのだが、本番となると勝手も異なりトラブルが起きないかと関係者は気をもんで当日を迎えた。

市民から選ばれた御稚児さん、船に乗ってお囃子を担当する子供たち、巻藁船の組み立てと提灯装色を担う若衆などが日の高いうちから準備に汗を流し、夜の帳が下りると津島神社から使いの赤船が巻藁船に出船の知らせを行うことで、いよいよクライマックスが訪れる。

舞台となる天王川公園の御旅所(おたびしょ)周辺には本部が置かれ、丸池の周囲に組まれた桟敷は満席となり、その背後をぐるりと屋台が連なって出店し、出船を待つ人々の期待が最高潮に達した頃合いに五隻の巻藁船は丸池に登場した。水面に提灯を映し込みながら進む姿は風情があって美しく、見事に幻想的な伝統祭の主役を演じきった。

翌日の朝祭りでは、巻藁船は能人形を乗せた車楽船(だんじりぶね)に模様を変え、10人の鉾持ちが丸池に布鉾を持って飛び込み、津島神社に布鉾を奉納するのが習わしだ。

3.祭りの経済効果を最大化するために  -ストック効果にもつなげる工夫を-

今年(2023年に)出店した屋台の数は240にも及び、人出も多く、大変な賑わいを生んでいた。誠に喜ばしい限りである。過去の実績では二日間で約20万人が訪れた実績もあるという。古式ゆかしい伝統祭りを継承する事で文化的アイデンティティを持つことが津島市民にとって何よりの誇りだと思うが、同時に期待されるのは賑わいが生む経済効果だろう。

祭りの経済効果は、準備段階(チラシの印刷や材料の調達など)と当日の来訪者訪による消費が主たるものだ。但し、これらはフロー効果と呼ばれ、その場限りの短期的効果となる。従って、天王祭のフロー効果は祭りが終わると同時に途切れてしまうので、津島市経済にとっては効果の波及が限定的だ。祭りは地域で存在感はあるものの経済効果が持続しない場合が多く、天王祭に限らず全国の祭りに共通した問題と言えるだろう。ここで念頭に置くべき課題を二つ上げておきたい。第一はフロー効果を最大化する事であり、第二はストック効果(持続的に波及する効果)に結びつけることだ。

第一のフロー効果の最大化だが、祭り当日の屋台での消費は必ずしも津島市経済に帰着するものではない。屋台業者に帰着するから大方は市外に流出する消費だ。屋台で使う材料を津島市内で調達していれば市経済を潤すが、これも市外で調達されている可能性が高い。市内に落ちる消費が膨らむことが津島市のGRP拡大を意味する。従って、フロー効果が生じていても現状では津島市のGRP拡大に繋がっていないという認識を持ってフロー効果を最大化していく必要がある。

そのためには、可能な限り津島市内で調達してほしいと屋台業者に協力を依頼してみることと、屋台の出店料が津島市経済に還元される仕組みを作る事などが挙げられよう。さらに重要な事は、市内事業者の出店を促すことだ。飲食物販が中心になると思われるが、祭り会場に地元商店が販売所を構えれば、そこでの消費は間違いなく津島市経済の内側に落ちる。これは計画段階から検討する余地が十分にあるだろう。また、天王川公園から駅に伸びる天王通商店街は現在シャッター街になっているが、この天王通にも祭り期間には市内一円から出店を促し、消費拡大につなげることも検討すべきだ。市民によるイベントスペースを設けることも一考だろう。さらに筆者の浅知恵だが、天王川公園の周囲をめぐる堤防の斜面上部を利用した桟敷席の増設ができないものだろうか。桟敷の席数が増えれば祭りの収支が良化するから、市内消費への還元が多様に可能となるだろう。こうしたことを含め、フロー効果を最大化する工夫の余地はまだまだあるはずだ。

第二に、ストック効果への転換だが、これには更に知恵と根気が必要だ。理想的な例としては、祭りを契機に天王川公園に愛着を持つ人が増えてを公園利用の増進に繋がったり、津島市に関心を持った人が観光客として再訪したり、津島市の特産物のファンが増えてふるさと納税が増進したり、祭りを大切に守る地域愛に惹かれて津島市に定住する人が増える事などが挙げられる。こうした現象に繋がれば、祭り期間だけではなく市経済への波及連鎖が続くため、ストック効果と言える状態が発生して津島市の活性化に寄与することとなる。

しかし、ストック効果は一朝一夕には叶わぬ効果でもあるため、コツコツと取り組む必要がある。SNS等を通じて津島市との繋がりを持つ人々を開拓する先に上記のストック効果例に結びつくことが考えられるため、まずは年間を通した情報発信に努めることが肝要だろう。天王祭を契機にして多様なチャネルから津島市の関係人口を増やしていく作戦を是非立案してもらいたい。そのためには、市役所とPark-PFI事業者を核としたストック効果チームを編成して恒常的に検討しながら試行錯誤を続けることが望ましい。

津島市には、天王祭以外にも藤祭りや秋祭りといった集客力のある祭りがあり「お祭り都市」とも言える横顔を持っている。お祭り都市だからこそ「祭りの経済学」を育み、市経済の活性化につなげる知恵を宿していかねばならない。Park-PFI事業者(岩間造園)は初めての仕切りであったにもかかわらず、見事に2023年の天王祭を成し遂げたのだから忠心より「あっぱれ!」と敬意を表したい。今後は、民間の発想を吹き込み、フローの効果の最大化とストック効果への転換に向けて「お祭り都市・津島」の発展に一役買って頂く事を願いたい。新世代の天王祭の始動を機に、津島市とPark-PFI事業者とのパートナーシップによって適切な改革と新たな取り組みが生まれることを大いに期待している。

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