Vol.216 津島神社に「宮きしめん」、天王通に「丸善」、今津島市が面白い!  -次々と民活事業を繰り出す先に期待する展開-

津島市は、令和7年3月に宮商事㈱と事業用定期借地権の設定を契約した。市有地に飲食事業者を募り、津島神社周辺の賑わい活性化を企図したものだ。先行した天王川公園ではPark-PFIでスターバックスコーヒーを誘致し、公園の再整備と併せて新たな賑わいが生まれている。また、天王通ではDBO方式でシビックプライド醸成拠点の整備運営が丸善グループにより取り組まれる事となった。次々と民活事業を繰り出す津島市の今後に目が離せない。

1.始動した津島市の挑戦  -都市計画マスタープランで生まれた都市活性化戦略-

津島市は長い歴史とともに尾張地域の拠点として栄えた都市である。1200年の歴史を誇る津島神社の門前町として戦国時代には織田家から保護を受け、江戸時代には湊町として交易で栄え、明治に入ると繊維産業が発展した。この繊維産業は、戦後の朝鮮特需を享受し、その後のガチャマン景気で一層に隆興して街に活気を与えた。しかし、1970年代に繊維産業の灯が消えてからは市経済が停滞し、2000年以降は人口が伸びず、2010年以降は人口減少が顕著となり(図表1)、目抜き通りであった天王通に往時の面影はない。

こうした停滞の趨勢に終止符を打つべく、津島市は令和4年(2022年)1月に都市計画マスタープランを策定して公表した。本気のまちづくりから都心の停滞を克服しようとする反転の狼煙と筆者には映る。ここでは、正面玄関と名付けた都市拠点(津島駅周辺)を核に4つの玄関(東西南北の拠点)を設定するとともに、地域生活拠点や地域振興拠点、レクリエーション・スポーツ拠点などが配置され、これらの位置づけに基づく活性化事業が計画された。その第一弾として取り組まれた天王川公園Park-PFIでは、公園の改修整備に合わせてスターバックスを園内に誘致するとともに、藤まつりや天皇祭りの運営にPark-PFI事業者が主体的に関与する体制が構築された。

そして、活性化事業の第二弾として取り組まれたのが「津島神社周辺エリア観光ターミナル整備運営事業」であり、津島神社参道の入り口に市が保有している土地に事業用定期借地権契約を結ぶ飲食事業者を公募した。3社から提案があり、名代である「宮きしめん」を中心に和食サービスの展開を提案した宮商事㈱が選定された(vol.195ご参照)。

更に続いた第三弾では、津島市の本来の目抜き通りである天王通に市内外の人々が集う交流拠点を整備しようと、「津島市シビックプライド醸成拠点」と名付けられたDBO事業が公募された。国の登録有形文化税である観光交流センターと旧いちい信金を活用し、多世代が立ち寄れる憩いの空間とするとともに、市民の活動拠点を整備運営する事業であり、二つの建物を繋ぐ中庭にはパティオを整備して観光客に路地裏のお楽しみ空間を演出する事が企図されたものだ。

これには4グループからの応募があり、丸善グループが選定された。丸善雄松堂㈱(通称、丸善)が本業としている本を介したワークショップ等を展開するとともに、津島市の象徴的資源である抹茶を交流企画や観光振興のコンテンツとする提案がなされ、市が企図した市民の交流・活動促進、観光客へのおもてなし空間の創出などの意が汲み取られていると評価されて採択された。当該事業の立地は、津島駅と津島神社の中継地点であるとともに、寺密度日本一(津島市)の中核エリア(本町筋)へのエントランスとなる場所である事から、市民と観光客の交流拠点としては申し分ない立地であり、今後は丸善の運営による成果が期待されている。

2.事業者選定に至る過程の苦悩  -担当職員の真摯な姿勢が奏功-

第二弾では宮商事㈱を、第三弾では丸善雄松堂㈱を誘致して、民間事業者の得意領域を活かせる地域づくりの担い手を得た津島市であるが、二つの事業には各々に生みの苦しみが存在した。

第二弾の観光ターミナル整備運営事業では、マーケットサウンディング時に最大の苦悩があった。津島神社は古い歴史と高い格式のある神社であり、天王川公園と連続する立地である事から市の観光拠点にふさわしいエリアであるが、年末年始や天皇祭り、藤まつりと言ったイベント時に集客が集中して通年の賑わいを形成していない事が課題である。ここへの飲食店誘致は簡単ではなく、候補事業者の開拓の道程は平坦ではなかったが、担当した市職員が熱意を持って各社に足を運び、応募しやすい条件の模索を重ねた結果、3社の応募に漕ぎ着けた。まさに、マーケットサウンディングが奏功した結果である。

マーケットサウンディングは、単なる民間企業へのヒアリングで終わらせるものではなく、応募意欲を喚起する取り組みである。各社を口説く熱意が必要であるし、意欲を喚起する募集条件を探索する姿勢が必要だ。同時に、市としての理想像を描きながらサウンディングする必要がある。やみくもに当たるのではなく、当該事業にとって適性の高いコンテンツホルダーを描くイマジネーション力が求められる。こうした点において、担当した菱田課長補佐には、マーケットサウンディングのノウハウが培われたと言えるだろう。

第三弾のシビックプライド醸成拠点整備運営事業では、事業者選定後の協議に最大の苦悩があった。事業者選定委員会からは、5つの要望が付議されたため、その実現を図るべく事業者との協議を重ねる必要があった。この5つの要望を市が事業者に押し付ける姿勢で臨むと良好な関係は生まれない。要望事項に対する事業者側からの返答と提案を読み取る中で事業者にとって苦しい事情が見えてくるものだが、そこへ上手に助け舟を出す姿勢が市側に必要なのだ。そうする事で、市と事業者の間にパートナーシップという関係が構築されていく。民活の醍醐味の一つはこの点にあり、市が上位で事業者が下位という従来型の発想を打破して対等の関係を構築する事が、市にとって頼り甲斐のある担い手を育て上げる事となる。この点においても担当した津島市職員(山本さん)は、民活の極意の一つを修得したと解して良いだろう。市幹部と事業者の狭間に立って板挟みとなりながら、着地点を見出した山本さんの努力に喝采を送りたい。

3.期待される効果と連鎖的取り組み  -津島駅周辺整備事業への波及効果-

3つの民活事業を立て続けに着手した津島市は、前述したように長い活力低迷のトンネルの中で喘いできた都市である。従来型の公共事業だけでその趨勢を反転させることは困難と日比市長が判断し、職員の奮起を促して大胆な挑戦に踏み出した。こうした姿勢がもたらす今後の効果を展望しておきたい。

まずは、各事業において企図した成果が得られることが第一義的に必要なのだが、更に発展的な効果が期待できると筆者は考えている。それは社会の目だ。多くの愛知県民にとって、あるいは愛知県を基盤とする企業にとって、津島市は沈滞ムードの漂う都市として印象づいている。しかし、これを跳ねのける取り組みをコツコツと重ねている努力の姿勢は市民、県民、企業に確実に伝わる事だろう。そして、各挑戦が着実に成果を上げる状況に気づくはずだ。

とりわけ、企業への伝搬が重要だ。地域に密着した企業とは、地元企業は勿論だが、これに加えて鉄道会社と金融機関がある。津島市の例で言えば、名古屋鉄道と三菱UFJ銀行だ。この2社は、津島市の取り組みが単なる挑戦から成果に結実していく様を見た時、自社の新たな取り組みフィールドとして位置づける事を考え始めるに違いない。大企業であっても地域密着型の事業を生業としている企業は、地域が汗をかく姿にカンフルされるものだ。

勿論、楽観できるものではないが、地域密着型企業は、地域への貢献と自社の発展の両立を求めて新しいビジネスモデルを検討している事は事実である。そのような中、地域側が市場性に変化をもたらす起爆装置を作らねば企業も静観を続けるだろうが、地域が挑んだ起爆装置が作動した場合には自社としても動く時期と捉えるだろう。 津島市の能動的な取り組みは、こうした起爆装置としての役割を果たす可能性があり、地域密着型企業はその成り行きに関心を持っているに違いないと筆者は読んでいる。むしろ、成果が見え始めた暁には、津島市側から企業側に「さあ、次はそちらの番だ」と呼びかけても良いだろう。

津島市の民活事業の第一弾から第三弾までを間近で見てきた筆者としては、単なる楽観ではなく、ひいき目でもなく、企業側の動きを注視していきたいと思っている。津島市が設置した起爆装置が作動し、企業の行動をも起動させた時、津島市の活性化への挑戦は本格的な段階へと昇段する事となる。

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