Vol.245 愛知県の人口動向に見る県土振興の課題  -名古屋以外で進む日本人の県外流出-

愛知県人口動向調査年報(2025年)が2025年12月24日に公表された。この調査は、国勢調査(5年ごと)を基に住民基本台帳による増減を月次で加味した年次統計で、愛知県人口の動向を総括的に把握できる調査である。その結果は、名古屋市以外の全地域で人口減少基調となっており、県人口の減少は6年連続となった。また、名古屋市を含む全県で自然減が拡大し、外国人の増加が拡大している。県土に及ぼす影響を考えたい。

1.愛知県の総人口の推移  -6年連続の減少、名古屋市以外の全県で日本人の社会減-

2025年の愛知県の総人口は7,453,803人となり、前年比▲0.15%の減少となった。現少人数は、2024年が前年比▲15,647人であったのに対し、2025年は前年比▲11,447人であるから減少数は縮小したが、6年連続の減少である。ピーク人口は2019年の7,554,242人であったから、ピーク比で約10万人減少した事となる(図表1)。

人口増減を自然増減と社会増減に分解して地域別に整理したのが図表2だ。自然増減は▲38,928人の減少で、前年の▲34,633人よりも約4.3千人減少が拡大した。これに対して社会増減は25,805人の増加で、前年の18,986人よりも約6.8千人増加が拡大した。しかし、自然減を社会増で補う事は出来ず、人口減少となっている。

増加の拡大傾向を示した社会増減を日本人と外国人に分けて見ると、日本人の社会増が2,139人であるのに対して外国人の社会増は23,666人であり、全県の社会増の9割以上が外国人の転入増加によるものと分かる。また、日本人の社会増は名古屋市(10,533人)によるものであるから、名古屋市以外の県内全地域で日本人の社会減となっている。従って、愛知県では、名古屋市を除いて日本人の「自然減+社会減」の構造となっている。

図表2から愛知県の人口動態を地域別に整理しておきたい。まず尾張地域だが、ここで特徴的なのは日本人と外国人の双方で社会増となっている事だ。但し、これは名古屋市によるもので、名古屋市を除けば日本人の社会減である事に留意が必要だ。そして、日本人の人口増減(▲21,179人)は、愛知県内で最もボリュームの大きな減少となっている。尚、名古屋市の人口動態の詳細についてはvol.244を参照されたい。

次に西三河地域では、全体としては「社会増+自然減」であるものの、社会増における日本人の減少が大きいため、自然減を社会増で補えずに人口減少となっている。愛知県の誇るモノづくり産業の心臓部地域であるが、日本人の流出が続いている点に留意が必要だ。日本人のモノづくり離れが顕在化しており、モノづくり産業だけでは若者を惹き付ける事ができない現状を象徴的に表している。

そして東三河地域では、日本人の社会減と外国人の社会増が拮抗しており、社会増減がゼロに近い状態となっている。その結果、地域の人口は▲5,193人の減少となっており、愛知県内の地域別人口増減の中で、最も大きな減少数となっている。

2.地域区分別社会増減に見る転入・転出傾向  -圧倒的な東京への流出傾向-

愛知県では、日本全体の傾向と同様に少子高齢化による自然減の拡大が進行しているが、これは県民の価値観によるところが大きい(晩婚化、非婚化、共働きの進展など)。従って、婚姻、出産・育児の支援策を根気よく続けていくほか手立てはなかろう。

一方、社会増減は産業・経済の振興との関係が色濃いため、これを細かく見ておくことは地域づくりを考える上で重要だ。図表3は、愛知県の社会増減を地域区分別に見たもの(2024年)である(2025年の年報では集計が出ていない)。社会増減数の総数の内、国外からの増加が最も大きい事が第一の特徴点だ。国外からの社会増を除くと社会減となっている事が分かる(▲8,534人)。つまり、国内の人口移動に限れば愛知県からは流出超過の構造である(黄色の網掛け部)。

国内の人口移動の内、愛知県に転入超過となっている主な地域は東海地域と北陸・甲信地域であるが、首都圏にはそれらを圧倒的に上回る転出超過(▲12,874人)がある(青色網掛け部)。従って、先に見たように愛知県では日本人の社会減となっているのだが、それは東京への転出超過が決定的な要因となっているのである。

東京への転出超過は、20~30歳代のボリュームが特に大きく、進学・就職・転職期を通して東京に県人口が流出していると解さねばならない。愛知県は国内随一のモノづくり産業集積県だが、その心臓部の西三河地域で日本人の社会減が象徴的するように、モノづくり産業依存型の産業構造では首都圏の産業構造の吸引力を前に人口のダム機能を果たす事ができない現状が突き付けられている。首都圏の産業構造とは、中枢機能(本社等)の集積と高付加価値業種(情報通信業、金融・保険業、学術・専門技術サービス業、医療・福祉業)の集積に特徴があり、若者たちはこうした産業集積に吸引されていると考えねばならない。

人口が減少すれば、その分の家計消費が消失するから、県内総生産の縮退に繋がっていく。家計消費の消失を補う手段としては観光消費が代表的で、中でもインバウンドによる観光消費が効果的だ。しかし、愛知県ではインバウンドの増加は他地域の後塵を拝しているのが実態であるから、IGアリーナやジブリパークといった新しい観光資源が最大限に集客力を発揮する事を期待したいところだ。将来的には、リニア中央新幹線の開業が大きな転換期となる事も念頭に置きたい。

また、20~30歳代は家計消費が拡大する層で、40~50歳代は最大消費を行う層であるから、若者と子育て層に選ばれる地域づくりを展開する事も、地域内消費を維持する上で重要な視点だ。

3.愛知県土の振興に必要となるポイント  -産業構造改革、観光消費の獲得、公教育-

今後の愛知県土の振興、愛知県経済の振興に必要となる視点を人口動態から抽出して整理してみたい。第一は、産業構造改革である。東京に集中する中枢機能(本社等)と高付加価値業種を愛知県に移転誘致する事を求めたい。その際、中心的な役割を果たすべきは名古屋市だ。名古屋市の産業における付加価値産出力の増進を図る事が、若者の東京流出を抑止する最大のポイントと言えるだろう。

一方、愛知県が誇るモノづくり産業においては、1人当たり付加価値額を高める工夫が求められる。製造業の1人当たり付加価値額は、全産業平均と同水準であるから、決して高付加価値業種とは呼べない。高付加価値業種の集積に努める一方で、愛知県のモノづくり産業がAI、ロボティクス等の一層の導入を図るとともに、スタートアップ企業と有効な連携を図ることなどで、製造業としての1人当たり付加価値額を高めていく事が、愛知県の産業振興上、重要なポイントだ。

他方、2040年頃までに愛知県人口は約41万人減少する事が見通されている。これによる家計消失分は約4,000億円であるから、放置すればその分愛知県のGRPが縮小する事となる。従って、観光消費の拡大を企図して家計消費の消失分を補う事も重要な視点だ。

また、若者や子育て層を獲得できれば、家計消費の活性化に貢献してくれる事を念頭に置けば、先に述べた産業構造改革による若者の獲得に加えて、公教育のリデザインによる子育て層の獲得を図る視点も必要だろう。全国学力・学習状況調査の結果によると、愛知県の平均値は必ずしも芳しくない。外国人の増加と無関係ではないだろうが、優れた公教育にリデザインして底上げを図り、「学び取人育ての県」である事をアピールできるようにしなければなるまい。

愛知県の人口動態は、総数の減少が続く中で「日本人の減少」、「若者の東京流出」、「外国人の増加」などの現象を内包しており、これらがもたらす将来の圏土への警鐘を読み解き、大局的な戦略を構築して取り組みを展開しなければならない。中でも、名古屋市の役割は大きい。愛知県と名古屋市の連携による相乗的な取り組みが必要であると改めて痛感する次第である。

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