NAGOYA都心会議が2025.12.2に設立総会を開催した。名古屋鉄道・高崎社長の発意と呼びかけで準備会を立ち上げ、このほど正式な発足に至ったものだ。設立の背景と趣旨、目指す姿、掲げる活動方針などを踏まえ、この会議の狙いと設立意義を紐解くとともに、今後への期待を寄せたい。
1.モデルとなった広島都心会議 -「ひろしま都心活性化プラン」の実現を目指して-
広島市では、R3.4に「広島都心会議」が設立されている。広島市が策定した「ひろしま都心活性化プラン(H29.3)」実現のための新しい民間組織と謳い、具体的なまちの姿やまちづくりの実践に関する議論の場となる事を企図し、エリアマネジメント団体と自治体の中間に位置するプラットフォームとして組成された。広島都心活性化プランとは、広島市総合計画と都市マスタープランを上位計画とする部門別行政計画だ。行政計画の実現に向けて民間が動いた構図である。
この広島都心会議の設立背景には、二つの危機感があったと言う。第一の危機感は、福岡市の存在だ。九州の拠点都市である福岡市は人口162万人の政令指定都市で、人口をはじめとする諸指標のほとんどが増加基調で推移している。中でも、天神ビッグバンと名付けられた都心再開発の推進によってオフィス供給等が相次ぎ、これが若者の転入も促して活力が際立つ存在だ。これに対して、広島市は人口118万人の政令指定都市で、中国・四国地方の拠点都市であるが、2015年以降は人口が減少傾向へと転じ、沈滞ムードが漂い始めた。隣り合うブロックの拠点都市に対照性が鮮明化し、第一の危機感に繋がった。
他方、広島市の都心部には数多くのエリアマネジメント団体が設立されているが(図表1)、相互連携が密に取れているとは言い難く、広島都心活性化プランとの嚙み合わせもしっくりいっていなかったようだ。これが、第二の危機感となった模様で、都心のエリアマネジメント団体が協働して都心活性化に貢献する動きを作りたいとの思いが有志の中に燻った。
こうした事情が広島財界の危機感に火を付け、広島電鉄の椋田社長が立ち上がった。財界に呼びかけ、広島県と広島市にも協力を要請し、前述の主旨で広島都心会議の立ち上げに動き、会長には椋田社長が就くとともに、ひろぎんホールディングス・部谷社長と、広島ガス・田村社長が副会長に就いた。正会員は54団体に及び、賛助会員は24団体、オブザーバーに広島県と広島市が参画する体制が構築されている。また、都市再生部会、スマートシティ部会、観光・リバブル部会、ひろしまブランド部会の4部会が組成され、各部会の部会長企業を中心に活動を行っている。

2.NAGOYA都心会議の設立趣旨 -目指す姿は「NAGOYA REVOLUTION」-
この広島都心会議をモデルとしてNAGOYA都心会議は設立された。共通点と相違点を筆者の解釈で整理してみたい。
共通点は、危機感を抱く民間企業による立ち上げだ。名古屋鉄道・高崎社長が「名古屋の魅力づくりは都心の魅力づくりからだ」と名古屋都心に関わりを持つ民間企業に声をかけ、産官学民のプラットフォームの組成を企図したのは広島都心会議と共通している。
一方、相違点もある。広島都心会議は「ひろしま都心活性化プラン」の実現を目標と掲げたが、名古屋市にはこれに該当する行政計画はない。勿論、名古屋市には総合計画も都市計画マスタープランもあるし、名駅地区や栄地区に関する個別の計画もあるが、都心全体を包括したビジョンは存在していない。従って、名古屋都心会議は、これを提言するところから活動が始まる事になりそうだ。
NAGOYA都心会議が作成した資料から、その概要をご紹介したい。まずは、設立の背景だが(図表2)、今後の国土においてリニア中央新幹線のインパクトを強く享受できる「機会」があり、モノづくり産業集積と共に歩んできた発展経緯と大都市でありながらゆとりがあるという「強み」を持っているものの、若者の東京圏への流出超過が止まらないという「脅威」がある事から、都市の魅力が欠如しているという「弱み」を克服する必要があると建付け、都心の魅力づくりを行う必要があるとしている。

NAGOYA都心会議が議論の対象とするエリアは、東西方向は名駅西口地区から東新町付近まで、南北方向は桜通付近から若宮大通付近までを概ねの範囲としている(図表3)。名古屋市が都市計画マスタープラン等で示している都心エリアには三の丸地区が含まれるが、ここでは入っていない。また、副都心と位置付けられている金山地区も同様に入っていない。論点を絞りたいという姿勢がこのエリア設定に伺える。

そして、名古屋都心会議が果たす役割と目指す姿が図表4だ。役割には「起こす」、「つなぐ」、「広げる」が掲げられた。「起こす」には、名古屋市等に都心戦略ビジョン等を提言したいという意思が明示され、「つなぐ」には都心における産官学民のコミュニティ強化が企図され、「広げる」には魅力を広く発信するとうプロモーションを担う意味が込められた。その上で、目指す姿には「NAGOYA REVOLUTION」が掲げられた。都心を大変革していきたいという意気込みを表現したと解される。この大変革と言う言葉に拘りを感じ取りたい。「チマチマした開発では名古屋が埋没するぞ!大胆な取り組みが必要だ!そのために力を合わそう!」というメッセージが込められていると筆者は受け止めた。是非、会員企業でこの役割と意気込みを深く共有して頂きたいと願う。

活動内容としては①都市空間創造、②産業創造、③交流創造、④QOL創造の4本柱が設定された(図表5)。機能と基盤で構成される都市空間を再構築し、クリエイティブ人材が集う産業を育て、昼も夜もエンタメの中心となり、市民のQOL向上に貢献する都心とするための検討を行うと読める。都心の果たすべき役割を議論する上では、いずれも重要かつ適切なテーマ設定で、当面は①~③に部会が設置されて議論が始まる。

3.NAGOYA都心会議の設立意義と期待 -課題の共有、多様な主体をインスパイアー-
ここ数年、筆者は名古屋市を「衰退前夜」と説いてきた。その論拠は、名古屋市が抱える二つの人口問題に基底を置いている。即ち、①若者の東京への大量流出と、②子育て層の近隣市への転出で、このままでは市の社会経済が不活性化するという論旨だ。そして、この趨勢を反転させていくためには、若者にとってやりがいのある活躍機会を創出すると同時に市民所得の向上につなげねばならぬとの観点から、名古屋市の産業構造を機能と業種で改革して付加価値産出力を上げるべきと提唱し、この産業構造改革の中心舞台として都心の改造を行い、本社機能や高付加価値業種の誘致が必要だと主張してきた。NAGOYA都心会議が提示した設立背景、役割、目指す姿は、こうした筆者の主張と軌を一にしており、全面的に支持したい。
リニア時代に向けての名古屋市は、世界標準に照らして憧憬の対象となると都市を目指したい。そのためには名古屋鉄道・高崎社長が拘るように都心の魅力を飛躍的に高めていく事が不可欠だ。実現に向けて都市開発がトリガーとなり、都心に若者の活躍機会とアーバンリゾート空間を創出し、交流や文化や教育にも変革がおよぶ総合的で体系的な取り組みが必要で、ここに関わるステークホルダーは実に多岐にわたる事となるだろう。多様な主体が効果的な取り組みを模索する時、産官学民のプラットフォームは重要な役割を果たすに違いない。ここにNAGOYA都心会議の意義があると期待できる。
危機感を共有し、課題を見定め、高い目標を掲げて戦略的取り組みを展開できる力を名古屋が示す時が来た。NAGOYA都心会議の立ち上げに呼応して、行政も企業も大学も市民もインスパイアーされてこそ、REVOLUTIONへと繋がる。誰も見たことが無い名古屋の未来を、NAGOYA都心会議は英知を集めて描いてほしい。
設立総会では、愛知県・大村知事が「愛知県もプレーヤーとして支える」とエールを送り、名古屋市・広沢市長が「名古屋市も汗をかき、一緒に頑張る」と誓いを立てた。筆者も、筆者なりのやり方で名古屋都心会議を応援する道を歩みたいと考えている。


















