Vol.190 お墓ニーズの多様化と向き合う公営墓地の運営課題  -日本人の尊厳を守るお墓の行方-

日本では総人口の減少が続いており、お墓と向き合う機会も増えている。家族形態が核家族化するとともに世帯分離が進む中で、いわゆる先祖代々のお墓を維持していく事が徐々に容易ではなくなるとともに、お墓に対する新しいニーズも生まれている。自治体が運営管理する公営墓地でも、お墓の在り方について検討する必要が生じてきた。日本人の尊厳を守るお墓のカタチどう考えるべきなのだろうか。

1.名古屋市「みどりが丘公園」に見る公営墓地の現状  -多様なニーズに応える各種様式-

筆者は12年前、名古屋市が運営管理するみどりが丘公園にお墓を作った。先祖代々の墓が蟹江町のお寺にあったのだが、父の他界を契機に名古屋市内にお墓を移したいと考えたのである。お墓のお守りをするには近い方が良いし、古いお寺のお墓は通路が狭くて段差があるなど年寄りを連れていくには困難が伴うと感じていたからだ。この時、墓じまいと墓の新設を経験したのだった。

名古屋市内の霊園をあちこち比較したところ、公営墓地は民間の墓地(基本的にはお寺のお墓・霊園)よりも永代使用料が安く、中でもみどりが丘公園は新しい墓地公園のため、バリヤフリーに配慮された美しい環境が気に入った。抽選に臨み、権利を得て、普通墓地の区画に新しいお墓を建て、お彼岸と盆暮れにお参りに行っている。

みどりが丘公園は、名古屋市緑政土木局が整備・管理している60haにおよぶ公園で、墓地と公園が一体となった墓地公園となっている。ここに整備されている墓地の種類には、普通墓地、芝生墓地、修景墓地、合葬式墓地がある。普通墓地は日本の伝統的な墓石が並ぶ墓地で、芝生墓地は洋式の墓地、修景墓地は植木の中に墓石を配置する自然と調和した墓地、合葬式墓地は遺骨を共同で埋蔵する墓地である(図表1)。墓地使用者のニーズが多様化している事に対応し、多種の様式からお墓を選択する事が可能となっている。

料金は、普通墓地、芝生墓地および修景墓地(現在は募集していないが)の場合は、自分のお墓用の区画を取得する際に1回限りで支払う使用料(以下、永代使用料)と、年間の管理料が発生する。合葬式墓地の場合は、遺骨を埋蔵する際に1回限りで支払う墓地使用料が必要なだけで、管理料は発生しない。図表1で比較すると分かるのだが、平均的な規模のお墓の場合、1区画は3㎡ほどであるため、永代使用料は132.9万円となり、年間の管理料が4,000円ほど発生する。これに墓石代金が必要となるから、お墓を立てる際にはまとまった費用が発生する。合葬式墓地の費用は永代使用料の12~20万円しか発生しないからとても経済的だが、個人の区画は存在しない。

2.一般的な公営墓地の行革的論点とは   -増加を続ける無縁墓地の抑制-

みどりが丘公園は名古屋市の中でも近代的な公営墓地と言って良いが、全国自治体が運営管理する公営墓地は、日本式墓石が並ぶ旧来型の普通墓地であることが多く、使用者の高齢化や逝去に伴い無縁墓地となる区画が増加している。長らく祭祀(墓参り)されていないお墓は荒れ、雑草が近隣区画に影響を及ぼし、風雨や地震を繰り返し受ける中で傾いたり崩れたりするお墓も出現する。放置すべき限界を超えたお墓の使用者が不明若しくは連絡不通となった場合は、自治体が無縁墓地と認定して会葬する(以下、無縁会葬:お墓を取り壊し、遺骨を回収して整地すること)。当然、無縁会葬には費用が発生するから、その増加は公営墓地の運営管理の収支を悪化させる事となる。古い公営墓地は、管理料を無料としている場合も多く、また使用者が自らお墓を会葬(墓じまい)して区画を自治体に返却した場合には永代使用料の一部を返還する制度を設けている場合もある。こうしたことから公営墓地の運営管理に要する支出が増加し、行財政改革の対象として公営墓地の在り方を検討する必要が生じる。

この場合の政策的論点は、無縁墓地の増加抑制に置かれるべきだ。無縁墓地の増加を抑制するためには、使用者の連絡先を管理するとともに承継手続きを適切に行う事が基本だが、古い公営墓地では使用者の台帳が整っていない場合も多い。この場合、祭祀に訪れる使用者およびその関係者に対して立て看板などで連絡先の登録を促す事ぐらいしか手はなく、使用者台帳の作成には相応の時間を要する事となる。管理料を徴収していれば連絡先や振込口座記録などによって使用者台帳を管理する事ができるが、管理料を徴収していなければこれもできない。

そこで、管理料の徴収と永代使用料の返還制度の廃止が検討俎上に上がる事となる。まず管理料だが、戦前から整備されているような古い公営墓地では管理料を課していない場合も多く、こうした公営墓地の使用者に管理料徴収の理解を求める事は容易ではない。しかし、長期間の社会経済情勢の変化を受けて、経費の増加が看過できない状況となっている事について一定期間を設けて説明するしかなかろう。公営墓地には、使用者の墓石がある区画以外に園路もあれば植栽もあり、東屋や水汲み場を設置している場合もあるため、こうした共用の空間や設備について維持管理料を設定する事には合理性がある。一般の公園とは異なり、霊園は特定目的で特定の利用者が使用するのであるから管理料の設定は正当な受益者負担と解される。そして、管理料の徴収を通して使用者とコンタクトを取る事ができ、無縁墓地の増加抑制に繋がるのだ。

次に、使用者がお墓を会葬して区画を返還する際の永代使用料の返還制度だが、無縁墓地の増加抑制に軸足を置いた場合は、返還制度を残した方がお墓の放置抑制に機能する。会葬すれば返還金を受け取れるため放置抑制に働くからだ。一方、自治体側から見ると、返還制度は支出要因となるため、返還制度の存続に二の足を踏む場合もあろう。しかし、返還制度を廃止すれば放置を促しかねず、無縁墓地の増加に繋がり、結果的には行政が負担する無縁会葬費用の増加要因となってしまう。従って、返還制度を設定している公営墓地の場合は、これを存置させて良いのではなかろうか。

このように、古い旧式公営墓地の改革を行う際には、管理料の徴収を検討し、使用者台帳を作成するとともに承継手続きを定着させることを基本的方針とすべきだろう。

3.多様化するお墓ニーズへの対応   -合葬式墓地を含めた選択性の確保-

さて、個人にとってお墓を作り管理する事は大変でもある。先に見たようにお墓づくりの初期費用は大きく、墓石を設置する区画の使用者責任として掃除や草取りなどもあるから、旧来型のお墓を作りお守りをする事を躊躇する現代人が増加しても不思議ではない。

そこでニーズが増えているのが合葬式墓地だ。宗派を問わず遺骨を共同で埋蔵するので、個人の区画はないが費用負担は圧倒的に低い。承継手続きも生じないため無縁会葬は発生しない。モニュメントの前や参拝所などでお参りをする事で「墓参り」という日本の伝統的儀式は残される。名古屋市みどりが丘公園にも設置されているように、全国の中核市(62市)では25市(4割)で市営の合葬式墓地が設置されており、現代的ニーズとして受け止められていると分かる。

そして、この合葬式墓地にはいくつかの様式がある。屋内となる納骨堂方式と、屋外となるモニュメント式と樹木式などである。屋内式の場合は天候に左右されずにお参りできる事がメリットだが、やや暗いイメージを伴う。屋外式の場合は天候の影響を受けるが、開放的で明るくお参りをする事ができる。現代の日本人にとっていずれの方式が好まれるかはにわかに判断できないが、合葬式墓地は時代のニーズに適合した一つのスタイルだろうと筆者は思う。公営墓地として今日的に重要な事は、選択性を確保する事だ。

亡くなった先祖や家族、親族を祭祀する事は日本人の伝統を継承し故人の尊厳を守る意味もあるから軽んじるべき事ではない。同時に、お墓需要の増加とニーズの多様化にも適切に向き合っていかねばならぬ。普通墓地の場合には維持管理料を徴収して行政コスト負荷を適正化し、使用者台帳を整備して無縁墓地化を抑制する一方で、お墓のカタチを多様に選択できる公営墓地として運営を転換していく事が、今日の日本社会にとって求められているお墓事情ではなかろうか。

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