Vol.124 名古屋三の丸を「名古屋の顔」に  -庁舎の建て替えと長寿命化が進み始めたが…-

名古屋市三の丸地区は霞が関に次ぐ大規模な官庁街だ。そのルーツは名古屋城築城によるもので、尾張藩の重臣たちの居宅が立ち並び城下の要部を形成した。明治維新後は軍用地として利用された後、戦後は都市計画公園として位置づけられながらも官庁街が形成された。今、各庁舎では老朽化が進み、建て替えと長寿命化の検討が進みつつある。このまま放置すると再び官庁街として利用されることとなるが、果たしてそれで良いだろうか。

1.三の丸地区の現状  -郭内であって国内有数の官庁街-

図表1が三の丸地区の位置と範囲だ。名古屋城を南部と東部から囲むように形成されていることが分かる。名古屋城は熱田台地の北西の角に立地しているため、名古屋城の北側と西側は崖下となり防御に強い。このため、三の丸を南部と東部に配置することで名古屋城の四方の守りが固められた。そして、城郭内であるから三の丸地区の外周は堀や土塁によって囲まれており、名古屋城は特別史跡に指定されている。

このうち、赤線で囲ったエリアに国県市の行政機関が集中し、愛知県と名古屋市の2つの本庁舎をはじめ県市庁舎、国の合同庁舎や東海財務局及び国税庁舎などによりわが国有数規模の官庁街を形成している。黄線で囲ったエリアは国立名古屋医療センターや名古屋地方検察庁などが立地する国有地エリアで、青線で囲ったエリアには護国神社、名城病院、裁判所に加えて中日新聞社やNTT西日本などが立地し官民が混在するエリアとなっている。

関ケ原の合戦後間もない1612年に築城された名古屋城は尾張藩統治の中枢であるとともに、大阪城に豊臣方が残る時代に西日本への押さえとしても位置づけられた。その天守閣は国内最大規模であることから、徳川幕府が名古屋城に込めた意味合いの重さをはかり知ることができる。

三の丸地区は尾張藩の重臣たちの居宅が立ち並ぶ武家地であるとともに、奉行所や評定所なども立地したが、明治維新後は本丸、二の丸とともに国に接収され軍用地として利用された。先の大戦の末期に大規模な空襲を受け、天守閣を含めてほぼ全面的に焼失した。そして戦後は軍用地ではなくなり、平和利用を掲げて都市計画公園として位置づけられたが、徐々に官庁街へと姿を変えて今日に至っている(vol.98ご参照)。

さて、この三の丸地区は名古屋市民にとってどのように映っているだろうか。極端な言い方かもしれないが、多くの市民の目には移り込んでいないように思える。官庁街であるがゆえに日常的な来訪目的がないからだ。名古屋市のルーツの中核であり、歴史的意味合いを色濃く残すエリアでありながら、その文化性が発信されることは少なく、市民との触れ合いも少ない。天守閣と本丸御殿に限っては観光資源として集客しているが、名古屋の賑わいの中心である栄地区とは連続性がなく、名古屋のゲートウェーである名駅地区とも分離した立地となっている。つまり、官庁街であることが文化性に蓋をしてしまい、名駅・栄地区に形成されている賑わい空間からも独立した空間となっている。

今、この三の丸地区では、各庁舎が築50年を越え始め、建て替えや長寿命化検討が進み始めた。国の第4合同庁舎の建て替えが始まっており、愛知県庁の西庁舎は長寿命化の設計が始まろうとしている。このまま放置すると、無機質な官庁街として次の50年も蓋をされてしまう。三の丸地区に名古屋の発展を牽引する新たな役割を持たせられないものだろうか。

2.三の丸ルネサンス期成会の提案  -文化交流機能の導入を提案。問題は財源-

2021年1月に筆者が幹事を仰せつかっている三の丸ルネサンス期成会が三の丸再生の提言を発表した(vol.16、95ご参照)。この提言では、市民や来訪者が「城下町名古屋」を体感でき「名古屋の文化性」を発信できる空間にするべく、MICE等の交流機能を導入するとともに、重要文化財である県と市の本庁舎を転用してクラシックホテルや国立級の博物館として活用する事を提案した。また、これらを実現するためには、大胆な基盤再編(廃道や街区の統合など)を行い、各官庁の床面積を確保するとともに、交通機能を高めつつ新たな交流機能の空間を確保することを企図している。

こうした再開発を行うためには、庁舎の再編が必要で、国県市の庁舎を建替えながら移設することが望ましい。しかし、第4合同庁舎の建て替えが進んでおり、さらに個別庁舎の建て替え等が進むと制約が強まって困難となる。愛知県西庁舎の長寿命化の設計が着手されることから、これも庁舎の再編を難しくする。従って、早急に三の丸の再生に向けたビジョンとまちづくりの基本方針を策定して国県市の合意と市民の賛同を得なければならない。

三の丸再開発に向けての基本的な合意を形成していく過程で避けられないのが財源問題だ。補助金や基金はないので国も県も市も独自に予算を確保する必要があるのだが、これを軽減するための方策を模索したいところだ。そこで、可能性を探求したいのは余剰空間を創出して民間投資を誘導し、これを財源に充てる手法だ。従って、三の丸の再生実現に向けては、民間投資が可能な機能の見極めが重要な課題とも言える。

3.三の丸の果たすべき役割の位置づけが必要  -国内外に発信できる「名古屋の顔」に-

三の丸再開発に求められる民間投資が可能な導入機能は何か。それを探索するにあたっては、三の丸地区が果たすべき役割を明確に掲げることが必要だ。筆者は、国内外に発信できる「名古屋の顔」としての役割を果たしてほしいと願っている。「名古屋の顔」と認識されるためには、格調高い重厚的な空間に中枢性の高い業務機能、迎賓と観光の拠点となるホテル機能、要人会議に耐えうる交流機能などが集積し、名古屋城と相まって名古屋の文化発信力と経済的活力を象徴する地区となることがふさわしいのではなかろうか。

中枢性の高い業務機能としては、国県市で構成される行政機能に加えて民間の本社等が入居するオフィス機能の集積を想定したい。名古屋のオフィスビルエリアは名駅地区、伏見・丸の内地区、栄地区に形成されているが、リニア時代に東京一極集中是正の受け皿となっていくためには不十分だ。名駅西口地区、金山地区などにオフィスビルの供給を促す必要があるとともに、三の丸地区にも新たな民間オフィス機能の集積を想定したい。しかし、中枢的な民間オフィス機能を誘導するには現状の三の丸地区の交通条件は脆弱だ。SRTの整備によって三の丸地区が名駅と栄とに結ばれることは見通されるが、加えて地下鉄鶴舞線の丸の内駅と浅間町駅の中間に三の丸駅を設置することなど、交通条件を高める工夫が二重三重に必要だ。

迎賓と観光の拠点となるホテルは、2つの本庁舎のいずれかを転用する可能性を追求したい。重要文化財を活用して用途を転用した例は奈良監獄(星野リゾートがホテルを運営)などがあり、検討の余地は十分にあろう。クラシカルな外観を生かし、名古屋を訪れる観光客の利用を促すとともに、内外の要人を受け入れることが可能なホテルとなり得る資質を有していると思う。仮に本庁舎の転用が難しい場合は、新たに創出される空間の中で民間による整備を検討することも必要だろう。ホテルの立地は、三の丸に一般市民を誘(いざな)う核となり、オフィス機能立地との相乗効果によって地区の活力を形成するので検討すべき機能だ。

また、ホテルにはボールルーム等のバンケット機能の併設を求めたい。これによって名古屋のMICE機能を補完し高度化する事が可能になるからだ。本来のボールルームの意味は舞踏場だが、レセプション会場などとしても利用できる空間だ。県市の本庁舎には各々に正庁とよばれる式典用の大きな部屋があるので、これを活用する事が有効だと思われる。バンケット機能が併設されることで、三の丸が交流の場としての役割を果たすことが可能になるので、ホテルとセットで検討すべき機能だろう。

名古屋城は間違いなく国内一級品の文化資源だ。重要文化財である二つの本庁舎も大切な財産だ。これらが肩を寄せ合って立地している三の丸を「名古屋の顔」として再生する事ができれば、シビックプライドの向上に寄与するであろうし、リニア時代の国土にあって名古屋を活用しようというトレンドを形成することにも貢献しよう。

名古屋市は公式な見解を出していない。しかし筆者には秘かな意欲が垣間見える。検討が始まっている次期総合計画の策定と合わせて議論が深まることを期待したい。

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