藤棚の下に甘い香りが漂う津島市天王川公園では、2022(R4)年度に公募したPark-PFI事業者による公募対象公園施設の整備が進められていた(2023年5月)。完成するのは2023(R5)年7月だが、同年4月から指定管理業務が先行してスタートしている(vol.30、vol.64ご参照)。GW前から開催された藤祭りでは外国人観光客も増加して新たな賑わいが生まれていた。長い歴史を刻む尾張津島の天王川公園は、民活導入によって新生しようとしている。
1.Park-PFI事業者による取り組みがスタート -公園内整備を進めつつ指定管理が始動-
天王川公園は100年余の歴史を持つ由緒ある公園で、津島市民のシンボルであり憩いの中心である。藤祭りや天皇祭の舞台となる公園としても知られているが、祭り期間以外はひっそりと佇むことが多い。ラジオ体操に訪れる高齢者や、子供連れで遊びに来る親子などが見られるものの、休憩できる場所は限られており、丸池周辺には土埃も目立った。また、祭り期間中は駐車場の不足も常態化していた。歴史とシンボル性を持つ公園でありながら、通年型の集客が不足し、市民の交流拠点としては快適性に課題のある公園だったのである。
こうした課題を克服するために、津島市は天王川公園にPark-PFIを導入して賑わい創出などを図ることを政策決定し、2022(R4)年度に事業者を募集・選定した。選定されたのは「天王川パークマネジメント」グループで、代表企業を大和リース㈱が務め、構成企業として岩間造園㈱、スターバックスコーヒージャパン㈱、TONZAKOデザイン㈱が名を連ねた。この天王川パークマネジメントがPark-PFI事業者として施設整備を行うとともに、指定管理者として公園の維持管理を担うことになる。このうち、先行して指定管理業務が2023(R5)年4月からスタートした。
指定管理者は、公園で過ごす利用者の快適性の向上に努めるとともに、新生天王川公園での賑わいづくりを行い、その鼓動を市内に波及させることが求められている。既に指定管理者は、藤祭りに合わせて藤の鉢植えを市内の随所で飾るなど祭り期間中の市民機運醸成の試みが始まった。公園内に設置されたサービスセンターには授乳室が設けられ、幼児を連れた家族に喜ばれているという。また、藤祭りのライトアップ期間には屋台群が夜8時過ぎまで営業を延長した。市民は、既に天王川公園の変革の拍動を感じ取っているに違いない。
2.公募対象公園施設は7月に完成 -スターバックスが営業を開始予定-
3月までに整備が終わったのは、第1~第3駐車場、中地駐車場、駐輪スペース、サービスセンター、公園管理事務所、藤のトンネル、ジョギングコース(丸池の周囲)で、現在整備が進められているのは2つの芝生広場(水の広場、藤の広場)、野外ステージ、竹林伐採後のガーデニング、スターバックスコーヒーだ。
このうち、ジョギングコースと野外ステージは当初計画にはなかったものの、市内企業からの寄付金によってPark-PFI事業に合わせて整備が進められている。行政の民活導入への意気込みに、市内企業が粋に感じて寄付したというところだろう。津島市民社会において、行政と企業が呼応してまちづくりに取り組む兆しが生まれたことは、民活導入による想定外の効果として喜ばしい事だ。
現在整備中の施設群は、2023(R5)年7月に完成する予定で、8月の天皇祭の開催前に焦点を当てて完成を目指している。施設整備が完了した暁に市民や来訪者から注目を集めるのはスターバックスコーヒーだろう。Park-PFI着手前に市が行った市民ニーズ調査からカフェのニーズが高いことが確認されていた。ネームバリューの高いスターバックスコーヒーは多くの市民に歓迎されるに違いない。
実は、Park-PFI事業者選定員会の委員長を仰せつかった筆者は、スターバックスコーヒーが天王川公園にマッチするかどうか心配していた。子連れの家族や学生たちには喜ばれるに違いないが、ラジオ体操に訪れる高齢者たちにとってはどうだろうかと。モーニングタイムに営業をしてくれるだろうか、高齢者たちはスターバックスのメニューに馴染めるだろうか、そして歴史ある天王川公園の景観に合わせた店舗デザインになるだろうかと懸念していたのである。完成予想図を見ると、店舗デザインは明らかに公園の景観に合わせたデザインとなっており、津島市に寄り添う配慮を感じ取ることができる。是非、オープン後にはモーニングタイムの営業に配慮してくれることを期待したい。さすれば、津島市の高齢者たちはシアトル流のメニューにも慣れ親しんでくれることだろう。
3.天王川公園Park-PFI事業の舞台裏 -行政職員の誠実な熱意と努力-
津島市の天王川公園Park-PFI事業の舞台裏を少々ご紹介したい。担当したのは津島市建設産業部都市計画課マスタープラン推進室の松尾室長のもとに属する菱田課長補佐。ニーズ調査から募集要項の作成とPark-PFI事業者公募、認定計画の策定と指定管理者の指定などを一貫して担当した菱田補佐にとって、本格的な民活事業は初めての経験だったという。
慣れない業務と向き合いながら膨大な資料作成に取り組む菱田補佐からは、担当業務という以上に、津島市への愛着と天王川公園再生に向けた熱意が伝わってきた。こうなると筆者のお節介根性がくすぐられる。打ち合わせを通じ、筆者には知り得ない天王川公園にかかる複雑な実情に苦慮する姿を見るにつけ、頻繁に現場に足を運びながら募集条件を煮詰める姿に触れるにつけ、筆者にもアドレナリンが湧出して菱田補佐が作成する公募資料案に赤ペンを入れながらブラッシュアップを支援した。
聞くところによると、上司の松尾室長は「鬼」の異名を持つという。こういう人は組織がピリッとするためには必要だ。「自ら動け」と叱咤しながら指導する上司からの刺激を受けて取り組む菱田補佐の資料には、特徴的な点があった。一般的に、行政が作成する募集要項は味気のない文面が並ぶことが多い。応募する企業に特定の先行概念を与えないように抽象的な表現になることも多い。こうなると応募企業は市の意向を汲み取り難く、募集要項の行間を読むしかなくなるのだが、菱田補佐の募集要項案には、民間の自由な発想を求めることを前提としつつ「市にはこうなると良いなという案がある」という示唆が随所に織り込まれていたのである。筆者は、資料の推敲を重ねる上でこれを最大限生かすべきだと考えた。
長らく民活に携わってきた筆者は、民間企業から良い提案を得るためには、市の意向を上手に伝える公募資料が重要だと考えていた。それを募集要項の中でどのように織り込むかが難しいところだが、筆者が心がけてきたのは評価基準の中にメッセージを織り込む手法であった。どういう提案を求めているか、何を重視しているかを示唆しやすいからである。
これに対し、菱田補佐の資料は、評価基準以外の募集条件の随所に市が規定する事項と求めたい提案の方向をセットで織り込む記述があったのである。これなら応募企業にとって知恵を絞りやすい。一般の公募資料に比してやや冗長な面も残るが、企業の立場からは市の意向を汲み取り易く、競うべき事項が明瞭になるから、提案内容は市にとって受け入れやすいものとなる。筆者にとっても貴重な経験と気づきを得た試みであった。
公募を開始した後は、固唾をのんで応募状況を見守ったのであるが、菱田補佐の努力と個性的工夫が奏功して3つのグループから提案が寄せられ、いずれも力作が寄せられた中からPark-PFI事業者を選定することができた。まさに、あっぱれな仕事ぶりであった。
4.津島市における意義と課題 -民活による賑わい創出は今後もバトンリレーが続く-
天王川公園Park-PFI事業は、長らく沈滞ムードが続いた津島市が都市の活性化に向けて反転攻勢に転じた狼煙(のろし)のような役割を持っている。リレーに例えれば第一走者だ。この後にも、複数の民活手法による連鎖的まちづくり事業が控えているのである。
攻めの姿勢に打って出たのは3期目の日比市長で、実務を取り仕切っているのは松尾室長である。松尾室長が自ら垂範しながら策定した新しい都市マスタープランには、核となるまちづくり事業が市域の随所に配置されており、それらの事業推進のロードマップが描かれている。当然、市が予算措置を行うことが前提となるから投資を覚悟する必要があるのだが、日比市長はこれを決し、積極的に民活手法を導入して魅力的なまちづくりを推進しようとする方針が打ち出されている。
天王川公園Park-PFIはその先鞭としての役割を担ってスタートした。良きパートナーとなる企業に巡り合えたことで、後に続く事業に弾みも付いたことだろう。だからといって第二走者以降となる事業は容易なことではないが、民活手法の醍醐味を経験した津島市には知見が蓄積されたと考えて良く意義深い。その知見を活かし、さらなる試行錯誤を続けながら尾張津島に新たな活力の灯がともり、名古屋圏の西の拠点都市として本来の活力を再び発揮していく様を期待と共に見守りたい。