名古屋市民なら誰もが知っている鶴舞公園。正式な呼称は「つるまこうえん」と呼ぶ。地名や駅名は「つるまい」なのにややこしい話だ。実は、市民もあまりこだわってはおらず、日常的には両方の呼び方が混在しているように思う。
この様に、大らかに親しまれている公園だが、紐解けば由緒ある公園であることが分かる。
1.名古屋市第1号の歴史的公園 -公園管理者にとって神聖な公園-
鶴舞公園は、1909年(明治42年)に名古屋市が市制後初めて整備した公園だ。名古屋市の第1号公園と言って良い。2019年(令和2年)に開園110周年を迎えた名古屋市を代表する総合公園である。
整備のきっかけは1910年(明治43年)に開催された第10回関西府県連合共進会(博覧会)の会場を作る事で、建設工事に当たっては、新堀川開削工事で発生した土砂を利用して行われたという。共進会(博覧会)終了後に行われた本格的な造園工事により、共進会開催中の中心的施設となった噴水塔や奏楽堂などが取り込まれ、近代フランス式洋風庭園と廻遊式日本庭園とで構成される和洋折衷の大公園となった。1920年(大正9年)に現在の形が整い、以来1世紀余の歴史を誇る。平成21年には、公園のほぼ全域が登録記念物に指定されている。
何しろ名古屋市の初めての公園であるから、力の入れようが想像できる。当時の名古屋市では、「大規模な公園がない」ということが課題となっていたようだ。この時代の課題を担う公園整備であるから、設計に第一人者を複数名登用し、後述する様々な施設で構成しながら造園されたその経過を見ると、多様な英知を結集して整備されたことが伺える。だから、公園管理者である名古屋市緑政土木局では、今も神聖な公園として位置付けられている。
春から夏にかけては様々な花が咲き誇るが、特に桜は有名で「日本さくら名所100選」に選ばれているほどだ。桜の木の下で繰り広げられる花見の宴会は、この公園の風物詩になっていると筆者も感じる。また、近年はコスプレーヤーたちが撮影サイトとして集まるコスプレメッカともなっている他、ポケモンGO誕生後はポケモンの聖地とも言われるなど、時代に応じて市民に親しまれてきた。
鶴舞公園全景
2.公園内には様々な施設が点在 -動物園まであった!-
整備の契機となった共進会(博覧会)時に作られた代表施設は噴水塔と奏楽堂だ。噴水塔はローマ様式の大理石柱が目を引く。地下鉄鶴舞線の工事のために一時撤去されたが、1977年(昭和52年)に復元され、ほぼ当初のままの姿を保っている。奏楽堂は共進会(博覧会)時に種々の演奏会が催された音楽堂で、イタリアルネサンス風の建築である。1934年(昭和9年)に室戸台風で被害を受けて取り壊された後に、1936年(昭和11年)に当初とは異なるデザインの奏楽堂が建てられたが、1997年(平成9年)に当初のデザインに復元されて現在に至っている。この2つの施設は、鶴舞公園の歴史を象徴する建築物と言え、園内にクラシックな雰囲気を醸し出している。共進会(博覧会)時から整備されたものとしては、他に胡蝶ヶ池と鈴菜橋などがあり、戦後の進駐軍によって取り壊されたりした後、戦後に復元されている。
噴水等
奏楽堂
その他に、鶴舞公園内に点在する施設として名高いものを列挙してみたい。普選壇は、普通選挙制度の成立を記念して名古屋新聞(現、中日新聞)が1928年(昭和3年)に寄贈した野外劇壇である。同じく1928年(昭和3年)に、昭和天皇御即位を祝って「御大典奉祝名古屋博覧会」が開催された際、名古屋材木商工同業組合が出店した茶席が鶴々亭だ。木曾檜の最高級品が使われたという。また、昭和天皇のご成婚記念事業として1930年(昭和5年)に竣工したのが名古屋市公会堂だ。戦後は進駐軍に接収された歴史があるが、2020年(令和2年)には国の登録有形文化財に指定された。
一方、1918年(大正7年)には名古屋市動物園が鶴舞公園内に設置された。1937年(昭和12年)に東山動植物園に移されるまでは、鶴舞公園に動物園があった訳で、飼育動物が250種800点であったというから、大規模な動物園であったことが想像できる。現在では、動物園時代の通用門の門柱が残されているのみで面影はないが、当時の名古屋市民にとっては、十分に楽しめる施設であったに違いない。
このように、鶴舞公園は、明治・大正・昭和・平成を経て今日に至る歴史的な公園であり、各々の時代にあって時には市民の需要を担い、時には戦争や災害に翻弄されながら、悠々として名古屋市の歩みを見つめてきた公園であるとも言えよう。
3.Park-PFIで生まれ変わる -利用されてなんぼの公園に-
2017年(平成29年)年に都市公園法が改正され、Park-PFI制度が生まれた。これは、民間企業が都市公園内にカフェ等の収益施設を設置する事を許可し、その収益で公園の維持管理を行わせる民活手法である。全国の各都市に整備されている都市公園は、相応に古い公園が多いから、樹木は大きく緑豊かではあるものの、賑わいに乏しい公園も存在する。敢えて辛口に言えば、都市部における「公園という名の空地」になっていないかという問題意識である。確かに都市部において緑は重要だが、多くの市民に利用されてこそ、公園の価値があるという考え方を基底に、賑わい創出に資する収益施設を民間企業の力で誘致させ、利用価値を高めようという狙いがある。同時に、その収益で公園を維持管理させれば、行政としては一石二鳥となるわけだ(賑わい創出と維持管理費の縮減)。
名古屋市では、久屋大通公園と徳川園でPark-PFI制度を導入して改修・再整備した実績があり、この経験を活かして「聖なる公園=鶴舞公園」の魅力アップ作戦が動き出した。鶴舞公園は多くの市民に親しまれている公園ではあるものの、より多くの市民が足を運ぶ公園にすることと、古くなった公園内の一部施設を改修し維持管理を民間に委ねることを目的に、Park-PFI制度を導入して公園整備を行う事となった。2021年度(令和3年度)に公募が行われ、同年度中に事業者が選定される見通しだ。
これだけの規模の公園のPark-PFIとなると、民間企業も単体では応募できない。少なくとも造園、建築、収益事業誘致のノウハウが高度に必要となるから、民間企業はコンソーシアム(企業グループ)を組んで取り組むこととなる。どの企業とコンソーシアムを組むか。この段階から各社の競争が始まる訳だ。市民目線から見れば、関心の目玉は収益施設の誘致となろう。どのような収益施設(主として飲食施設)の誘致が提案されるか?何と言っても名古屋市第1号の聖なる公園である。民間企業側もこの点を理解して、鶴舞公園にふさわしい収益事業の誘致計画を練ってくるに違いない。筆者は事業者選定にあたり、審査委員を務める。鶴舞公園の格式に適合し、新しい魅力が生み出される提案を選びたい。大いに期待しつつ、居住いを正して厳正に審査に当たりたいと思っている。