Vol.246 『副首都構想』の候補地に名古屋がなくてよいか  -日本維新の会が主張する候補地の合理性を検証-

日本維新の会(以下、維新)が提唱している副首都構想は、候補地の要件で自民党と折り合わずに年越しとなったが、今般の衆院選で党の公約に掲げられた。選挙の結果、維新は改めて連立与党の地位を得たので、副首都法の制定は政治日程に上がるだろう。候補地として維新が挙げたのは札幌、大阪、福岡。副首都構想に意義はあるか。名古屋を入れない理由に合理性はあるか。候補地の要件に異論を唱える必要はないか。名古屋の立ち位置を考えたい。

1.副首都構想の狙い  -東京一極集中是正と首都バックアップ機能の確保-

維新が掲げる副首都構想の狙いは二つで、第一に東京一極集中の是正、第二に首都機能を代替するバックアップ機能の確保を掲げている。この点については大いに共感できる。若者たちが東京に流出することで地方は疲弊し、東京の出生率の低さが日本の人口減少に拍車をかけている。また、人口と諸機能が東京に集中する裏側で、東京の若者たちや企業は高コスト負担を強いられている。このような国土構造が望ましいはずはなく、東京に過度に依存した国土の是正は我が国の重要課題として長く位置づけられて来たが、半世紀以上を経てもなお克服できていない。

維新が第一に掲げた東京一極集中の是正は、地方創生の推進と国土の持続的発展のために重要なテーマであり、人口と諸機能の分散を図ることは暮らしや立地に要するコストの低減を選択でき、活力ある地方社会を取り戻すためにも必要な課題であるから強く賛同する。

また、第二のバックアップ機能については、政府・行政の中枢機能が集中する東京に大規模災害が発生した際に対応できる機能を東京以外に確保しようとするものだ。一極集中度が高いほど、東京が機能不全に陥った際のダメージは国家として大きいから、いざという時に即時に立ち上げられる首都機能のバックアップを整備しておくことに国民の異論はなかろう。平時と災害時の使い分けを具体的に議論する事が前提となるが、国家としてのリダンダンシーを高める上で重要な視点だ。

このように、副首都構想の狙いは賛同できるものであり、これを議論すること自体が日本の国土のあるべき姿に焦点を当てることとなるのだから、大いに意義あるものだと支持したい。

2.維新が提唱する副首都の要件と候補地  -名古屋が入らない事に合理性はあるか?-

ここで、維新の公約を整理しておきたい(図表1)。副首都の定義や狙いは上述の通りだが、その上で維新は副首都が満たすべき要件として4つを掲げている。第一は経済規模・都市機能集積が高くインフラやビジネス基盤が整っている事、第二は東京圏と同時被災しない位置・地理的条件を有している事、第三は首都中枢機能を代替可能な行政機能を受け入れられる都市空間を確保できる事、第四は特別区を設置する事としている。

これらのうち、第一から第三の要件まではその合理性が広く理解されるものと思うが、第四の要件は極めて政治的で維新の立場に偏るものだ。つまり、大阪が副首都となるためには大阪市を廃止して特別区に分割すると同時に府市を一体化した大阪都への再編が必要としているのであり、この点が多方面から「大阪都構想」の実現に向けた政治的思惑が色濃いものとして維新の恣意性が指摘されている。

この要件を踏まえた上で、維新が今般の衆院選で党の公約に記載した候補地は、札幌、大阪、福岡となっており名古屋は候補地に含まれていない。その理由としては、「名古屋は首都圏との一体性が強いため首都機能の分散には当たらない」という主張があるようだ。しかし、二つの狙いを掲げた以上、これらに照らして候補地の合理性が問われねばならない。候補地としての名古屋の資質についてこれを検証してみたい。

まず、第一の狙いである「東京一極集中の是正」について考えると、名古屋は大阪よりも諸コスト(物価、家賃、地代等)が安く、東京との価格差は大阪よりも大きいため、諸機能が移転した場合の経済効果は名古屋に移転した方が大きく発生する。この経済性に加えて、名古屋は東京や大阪に比べて住宅も広く、通勤時間も短いから(下図ご参照)、空間的、時間的、経済的に最もゆとりがある大都市圏と言え、一極集中是正の受け皿としての資質は高い。また、都市規模は札幌、福岡よりも遥かに大きく、諸機能・インフラともに整っている。従って、「東京一極集中の是正」に貢献する候補地として名古屋を外す合理性はない。維新側の主張にある「首都圏と名古屋圏の一体性」とは何を根拠にしているかは不明で、圏域として東京と名古屋は明らかに別圏域であるのが実態であるから、後付け的印象を拭えない。

そして、第二の「バックアップ機能」についてだが、首都圏直下型地震や富士山の大噴火を想定した東京の機能不全を考えた場合に、確かに名古屋は札幌、大阪、福岡に比して東京に近いが、名古屋が機能不全に陥るほど同時被災するとは考えられない。むしろ、東京と名古屋は高速道路で3本、リニアが開通すれば新幹線でも2本で結ばれ、陸路における高速交通網が重層的であるから東京とは完全途絶しにくい立地条件を有しており、この点を高く評価すべきだ。なお、名古屋は南海トラフ地震の発生が懸念されるエリアに含まれるが、広域的に想定されている被災エリアの中央に立地することから、防災司令塔拠点の設置を考えるのであれば、むしろ名古屋に設置することに立地適合性が高い。

従って、副首都構想の二つの狙いに照らして名古屋はいずれも良好な資質を有しているのであり、候補地から外す事には合理性はないと断じて良いだろう。

他方、名古屋を候補地から外した理由として筆者が憶測するのは、名古屋市が特別市制度の創設を主張している点だ。特別市とは、県の下にある政令市という現在の枠組みを変更し、県と横並びに位置して県が担っている行政事務を直接担う自治体を意味している。地方自治法の改正が必要となるため即座に実行できるものではないが、名古屋市は新たな大都市制度として特別市の創設を主張しているのである。この点において、大阪都構想とは全く別路線を歩む姿勢を示している事が、維新側にとって不都合に映っている可能性もあるのではなかろうか。

3.名古屋市が取るべき立ち位置  -特別区の要件を外して候補地に名を上げる-

自民党の歴史的圧勝には驚天動地だが、維新は衆議院の議席数を伸ばせずに終わっても大阪府知事・大阪市長のダブル選挙では勝利し、連立与党としての枠組みは維持される模様だ。さすれば、副首都構想は政治日程に上がるだろう。その際には、名古屋側は意を決して声を上げる必要がある。

名古屋側が主張すべきことは2点だ。第一は維新が掲げた副首都要件のうち第四の要件を外すべきだという点、第二は候補地として名古屋は優れた資質を有しているという点だ。どのタイミングと方法で主張するかを含めて、愛知県・名古屋市は検討していただきたい。副首都を定める副首都法が制定されれば、今後の国土の構造が規定される事になる。国土のあるべき姿と名古屋の役割を考える上で、期せずして公の場で主張できる好機を得るのだから、これを是非活かすべく動くべきだ。副首都法の議論が始まった際に、名古屋側が黙して傍観するような事があれば、愛知県と名古屋市の行政と議会は猛烈な批判を浴びる事を覚悟せねばなるまい。

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