東海環状地域整備推進協議会が主催する「東海環状道20周年!中部地域の未来を語るシンポジウム」が2025.11.25に開催された。東海環状自動車道は、2005年に東回りが開通して以来20周年を迎え、2025年度は西回りの区間開通が相次ぎ、路線全長のうち9割までが開通した。シンポジウムでは、これまでの効果を共有するとともに、将来の中部地域の発展における東海環状自動車道の役割についても意見交換が行われた。
1.東海環状自動車道の整備状況 -全長153kmのうち9割が開通-
東海環状自動車道は、名古屋市から半径約40kmの大都市圏外延部に整備される環状ネットワークで、2005年に東回りが開通したのを皮切りに順次整備が続けられてきた。先行整備された東回りは、愛・地球博の開催と中部国際空港の開港に合わせて開通し、今年で20周年を迎えた。
2025年度に入り、西回りのいなべIC~大安IC、山県IC~本巣IC、本巣IC~大野神戸IC間が相次いで開通し、全線153kmのうち9割までが繋がった(図表1)。残すは、養老IC~いなべIC間のみとなったが、養老トンネルが想定以上の難工事となって進捗を拒んでいる。全通まで安全に工事を進めて頂くよう、関係する土木技術者に忠心からエールを送りたい。

東海環状自動車道の整備に伴って沿線地域が享受したメリットの代表格は、企業立地の進展だ。図表2はNEXCO中日本が作成した立地実績だが、工場立地は195社、物流施設では103社が立地したと分かる。沿線地域の全ての地域で人口減少が進行しているから、個人市民税は停滞から減少へと推移する情勢だが、企業立地が進めば固定資産税が増収となり、雇用が生まれ、観光消費も活性化するなど、地域経済に多大な影響をもたらしていると捉えて良いだろう。
2025年度に入って区間開通が相次いだ西回りは、東周りに比べて立地実績が少ないが、IC周辺の土地利用を有効に活かして企業誘致を行う事が、税源涵養に向けて極めて効果的であるから積極的な取り組みを願いたい。一般論として立ちはだかるのは、農地の問題だが、農家の高齢化と営農意欲の状況を勘案して農地を集約しつつ、企業立地の受け皿となるよう転用を図る事が、都市経営上は有効だと進言したい。

2.沿線立地企業が声を揃えたものは -事業所立地、物流、ルート選択、通勤、そして…-
パネルディスカッションでは、愛知県・岐阜県・三重県の沿線地域から4社の立地企業がパネリストとして登壇した。筆者は、コーディネータを仰せつかったのであるが、各社が語った整備効果の中から、要点を紹介したい。
㈱バローホールディングスの小池社長の話で印象的だったのは、「小売りの使命はモノを動かす事」という説だ。平常時であっても非常時であっても、タイムリーに商品を供給することを大切にしているとし、とりわけ生鮮品については短時間輸送が不可欠で、多様なルート選択をも可能とした東海環状自動車道は、小売業の使命を安定的に果たす上で欠かせないインフラだと強調した。
分電盤(ブレーカーを含む)で国内トップシェアの日東工業㈱からは大野物流部長が登壇し、せと品野IC近傍にバンテリンドーム5つ分の大規模用地を取得して拠点工場を移転したと紹介した。工場の老朽化と拡張ニーズに対応すべく、納品先にデリバリーしやすい好立地を探していたところ、東海環状自動車道沿線に見つかった事を幸運と話した。また、従業員の高速道路通勤を認めるよう社則を変更し、社員の日常の足としても活用していると紹介した。
物流不動産で世界一を誇るプロロジスからは、村上開発部長が登壇し、高速道路と物流施設の密接不可分の関係性を語った。大都市圏(=大規模消費地)の外延部に整備される環状道路には、放射方向の高速道路との交点で数多くのJCTが整備されるが、JCT周辺は物流施設にとって重要な立地をもたらしている。プロロジスは賃貸型倉庫施設を多数手がけており、多方向への搬送に便利な環状道路JCT周辺の立地環境は物流の効率化に大きく貢献していると語った。
工作機械大手のヤマザキマザックマニュファクチャリング㈱の小林いなべ製作所長は、大型機械を製造するメーカーとしてサプライチェーンと製品搬送の観点から東海環状自動車道の重要性を語った。同社は美濃加茂工場から組み立て前部品をいなべ製作所に日常的に搬送しているとともに、完成品は海外向けが多いため名古屋港から輸出していると言う。伊勢湾岸道路と一体的な利用価値を裏付ける話であった。
このように、沿線立地企業からは、事業所立地、物流・デリバリー、ルート選択の多様性、従業員の高速道路通勤などといった点で東海環状自動車道の重要性が語られ、中部地域の産業経済にとって不可欠のインフラとして定着している事が再認識された。
一方で、登壇した4社が口を揃えて指摘した要望もあった。それは全線の4車線化である。東回りの岐阜県内区間の一部と西回りの全線は暫定2車線となっているからだ。暫定2車線では、自専道ネットワークとしての役割は果たせても、高速道路としての機能は十分に発揮できない。これまではミッシングリンクの解消に重点が置かれたが、開通20周年を迎えて効果が定着した今日では、4車線化への期待も高まっている事が期せずして確認された。
3.提案された東海環状自動車道の役割の将来 -環状都市帯の機能連携軸として-
この他にパネルディスカッションには、経済界とシンクタンクからも登壇者が加わった。(一社)中部経済連合会からは産業基盤強化推進部の小林部長が登壇し、中部地域は東京一極集中是正の受け皿となる地域づくりをすべきと提言し、この点に筆者は強く共感した。首都圏に集中する諸機能の一部を移転・再配置させる場合、高速道路ネットワークの充実による道路交通の定時制、速達性、冗長性は重要な条件であるから、東海環状自動車道の役割は重要と語った。
シンクタンクからは、日建設計総合研究所の安藤役員・主席研究員が登壇し、TOD(Transit Oriented Development)の観点から東海環状自動車道の将来の活用を考えるべきと提言した。三大都市圏の中で鉄道ネットワークの脆弱な中部地域においては、高規格道路による環状ネットワークを「公共交通軸」として活用すべきとの発想で、沿線都市間で機能連携を推進する際には、環状道に公的モビリティを走らせる事が効果的であるという。例えば、高次病院や大規模商業施設等を環状道路IC付近に立地させ、中心市街地から環状道へのアクセスを整備し、環状道との結節点にモビリティハブを設置して環状道を自動運転による公的モビリティを利用できるようになれば、沿線地域の持続的発展に資するというアイデアとだ解した。
実は、冒頭の基調講演では、人口減少対策総合研究所の河合理事長が日本の人口減少は年率1%のペースで進むと見通した。10年で1割減、50年で半減のペースだ。そうした情勢下では、コンパクトでネットワークの効いた地域づくりを指向すべきで、環状道路ネットワークが活きると主張した。環状道路沿線地域を一つの都市帯として想定し、老朽化した公共施設等をIC付近に再配置して沿線都市間で相互利用する関係を構築する事が望ましいという考え方だ。安藤主席研究員の提言と通ずる話である。
沿線地域では人口減少が進行中で、今後は単独市町村でこれまで通りの都市経営を行う事は難しい。各都市の既成市街地から東海環状道を利用して公共施設等を相互利用できる都市帯システムを構築する事が、人口減少下の地域づくりの在り方だという提言は、中部地域の将来を考える上で参考となる価値ある発想だ。大都市である名古屋市との放射方向の連携だけではなく、沿線地域間の環状方向の連携との両面で地域づくりを考える事が、中部地域らしい在り方になるのではないかと言うアイデアが寄せられたと受け止めたい。
全線開通まで1区間を残すのみとなった東海環状自動車道は、中部地域の産業経済活動に不可欠のネットワークとして定着している。今後は、全線4車線化を目標に掲げるとともに、環状都市帯の構築に向けた都市構造と交通システムの構築を模索し、その実現に向けた検討・協議が重ねられていく事を期待したい。


















