Vol.207 子どもと母親層が共に増加している上位都市はどこか  -子育ての舞台として選ばれる条件とは-

2019年から2024年の5年間で、子どもと母親層のどちらの数も共に増加した上位都市を住民基本台帳から抽出すると、意外な都市が並んだ。子育ての都市として選ばれている都市群が示唆する「選ばれる条件」とは何か。全国的に少子高齢化が進展し、人口減少に悩む自治体が多い中で、上位都市に共通する条件とは何か。特殊要因もあるものの、少子化時代における都市の発展戦略を考える上で参考になる示唆が読み取れる。

1.上位都市の抽出条件の発想  -子育て層に選ばれている都市はどこか-

全国で進展する少子高齢化と人口減少は、都市の発展像を検討する上で踏まえねばならない喫緊の課題だ。人口増減は、自然増減と社会増減で構成されるため、各々について要因を分析する必要がある。自然増減で減少基調が拡大する原因は出生数の減少であり、その結果、子どもの数が減少して地域の高齢化率を高める方向に働く。一方、社会増減で多くの地方都市の悩みとなっているのが若者の流出だ。進学期と就職・転職期に地域ブロックの政令指定都市や、東京に若者が流出してしまう傾向が強く、一度流出した若者たちの多くは故郷に戻らないため、社会減の主因となっている。

少子化の進展は、価値観(晩婚化、非婚化)と密接な関わりがある事から、地域づくりで克服できる問題とは捉え難いため、地域づくり側として着眼するのは社会増減を対象とする事が多い。本稿においても、これまで社会増減に着目した若者流出の問題を数多く取り上げてきた。但し、社会増減の要因として問題視されるのは若者流出だけではなく、子育て層の流出も放置できない問題である。30歳代~40歳代の多くは、子育てにふさわしい住宅の一次取得者となるから居住地選択機会に直面し、その際に今まで住んでいた都市から流出する場合が多いのだ。

そこで、子育て層に選ばれる都市の条件とは何かを考えるため、「子どもの数」と「母親層の数」に着眼し、これらのどちらもが増加している都市を抽出して見ると面白いヒントが掴めるのではないかと三菱UFJリサーチ&コンサルティングの宮下主任研究員が発想した。これにヒントを得て筆者も住民基本台帳のデータから抽出作業を試みた。

そこで抽出条件は、0歳~19歳の男女を「子ども」として位置づけ、20歳~59歳の女性を母親層と見なした上で、これらのいずれもが2019年から2024年にかけて増加している事を条件に上位都市を抽出した。ランキング条件は0歳~19歳男女の変化率によって増加傾向の強い順とした。なお、分析対象は全国の市町村のうち、市区部を対象としている(町村部は、特定の事象により変化率に大きな影響が出る場合があるため除外)。その結果を図表1に示す。

抽出された上位10都市は、全て首都圏からランキング入りした。そして、その上位都市群には、2つの傾向がある事が判明した。その傾向とは、第一に東京都心区が半数を占めた事であり、第二は基幹的な都市鉄道沿線の郊外都市がランクインしている事である。都心区とは中央区、千代田区、文京区、品川区、江東区であり、郊外都市とは流山市、印西市、つくば市、国分寺市、柏市である。

1位の流山市と2位の印西市は子ども(0-19男女)の伸び率が高く、9位の江東区と10位の柏市は増加数が大きいなど、上位10都市の子どもの増加傾向は顕著だ。また、これらの都市群では母親層の40-59女性を中心に高い伸び率を示しており、住宅取得期に絡む居住地選択の結果であると洞察される。

2.選ばれた都市に見る二極化傾向  -都心区 vs 都心直結鉄道沿線の郊外都市-

筆者にとって意外だったのは、東京都心区で子供と母親層が増加している事だ。意外に思った背景は、コロナ禍に東京特別区から人口の流出現象が発生したため、パンデミックに対してリスクの高い都心部が子育て層に選ばれていないと思い込んでいた事だ。また、東京都心部の新築マンションの平均価格は山手線の内側で2億円、山手通り(環状6号線)の内側で1億円を超えたと報道されており、住宅取得費の高額負担を考えても容易に住める空間ではないと思い込みを増長させていた。しかし、結果的には5つの都心区が上位にランクインしている事を現実として直視しなければならない。

一方、得心したのは郊外都市だ。選ばれた都市はいずれも首都圏における基幹的都市鉄道沿線都市であり、都心へのアクセスが良い点が共通している。流山市とつくば市はJRつくばエクスプレス(TX)、印西市は京成成田スカイアクセス線、柏市はJR常磐線、国分寺市はJR中央線の沿線都市であり、いずれも乗り換えをせずに1時間以内に都心へアクセスすることが出来る立地だ。リモートを活用した在宅勤務が可能な広さの住宅を確保し、必要に応じて機動的に都心にアクセスできる都市は、ワークスタイルから見た場合に魅力的だ。しかし、その様な条件の都市は他にも多数ある中で、これ等の都市が上位に選ばれた理由は他にあると考えねばならない。この点は後述する。

いずれにしても上位10都市からは二極化傾向が読み取れる。東京都心の利便性と有名私学等への通学し易さを重視して高額負担に耐えられる富裕層と、都心直結型の鉄道沿線にある郊外都市を選択する層だ(図表2)。前者は高層マンション居住であり、後者はマンションと戸建ての両方が想定される。両者の地価には大きな開きがあることから住宅価格にも大きな隔たりがある事は間違いなく、経済条件で見ても二極化している。

3.子育ての舞台に選ばれる3条件  -交通至便、文教環境、付加価値型産業機能-

二極化が読み取れる中、そして都心アクセスの良好な郊外都市は数多く存在する中で、これらの上位都市に通底する「選ばれる条件」を考えてみたい。筆者は、重要条件として3点があると捉えた。

第一は、交通至便である事だ。移動を伴う通勤・通学を考える場合、従来から交通条件は居住地選択の重要条件であったが、コロナ禍後の今日(リモートスタイルが定着)においても交通至便性は重視されている。東京都心区の場合には地下鉄利用で360度方向へのアクセスが魅力であり、郊外都市の場合には中長距離型の都市鉄道によって都心直通のアクセス性が重視されていると考えて良いだろう。尚、都心区の場合には、交通の便利性だけではなく、拠点的な都市機能(商業施設、文化芸術・スポーツ施設、大規模公園等)の利用しやすさも評価されている事は論を待たないところだ。

第二は、文教都市としての性格が好まれている点だ。都心区の場合は、有名大学や私学の小中高一貫校が多数集積しているので、文京区に限らず文教地区と考えて良い。一方の郊外都市では、筑波大学のあるつくば市、東京大学柏キャンパスがある柏市、東京学芸大学や国際基督教大学など多数の大学が立地する国分寺市は文教都市として知られているし、流山市は柏市(東京大学が立地)と野田市(東京理科大学が立地)に隣接しており、文教的環境にあると言って良いだろう。大学を象徴とする文教的なイメージは、子育て層に受け入れられやすい傾向があると見て取れる。

第三のポイントは、印西市のケースだ。印西市は千葉ニュータウン(1980年代に整備が進んだ)のある街として知られており、京成成田スカイアクセス線(北総線と共用)の千葉ニュータウン中央駅などが利用でき、浅草や上野まで40分ほどの好立地であることに加え、都心と成田国際空港の間に立地しているため空港利用も便利な都市だ。そして、近年は国内外の大手企業によるデータセンター等(金融機関の事務センターも含む)の開設が相次いでいる事でも話題だ。下総台地の上に立地して活断層がない事が評価されている。Googleをはじめ、有名企業のデータセンター等が多数立地する事で職住近接を求める従業員が居住地として選択している場合が少なくないだろう。つまり、付加価値型業務機能が集積している事も選ばれる理由の一つとなりそうだ。

交通至便、文教環境、付加価値型産業機能という3つの条件を備える事は容易な事ではなく一般化する事は難しいが、関連する要素を地域資源に持つ都市は、発展戦略を立案する上で是非参考にしてほしいところだ。大都市の都心から60分以内の直通鉄道を有し、大学を象徴とする文教施設があり、付加価値型産業機能の誘致に可能性を見出せる都市は、子育て層に選ばれる資質があると考えて良い。筆者の目には、リニア開業後の名古屋市(品川~名古屋間40分)はこうした条件を持ち得るから戦略的に取り組むべき代表都市だと思うが、名古屋の都心と直結する春日井市(中部大学、高蔵寺ニュータウンが立地)、東海市(日本福祉大学が立地)、岐阜市(岐阜大学が立地)などの都市においても自市の立地条件に照らした戦略立案の一考に値すると思うのだがいかがだろうか。

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