Vol.244 人口増加を維持する陰で構造化する名古屋市の人口問題  -向き合うべき若者と子育て層の流出-

R7年(2025年)の愛知県人口動向調査結果(名古屋市分)によると、名古屋市の人口は前年比7,609人増加して2,338,873人となった。人口減少が蔓延する我が国にあって、人口増加を維持する名古屋市では見え難いが、実は裏側で二つの人口問題が構造化している。第一は若者の東京流出であり、第二は子育て層の近隣流出だ。外国人の転入により人口増加が維持できている事で、深刻な問題が表面化しない事に危うさを覚える。

1.コロナ禍を挟んで増加を維持する名古屋市の人口  -自然減拡大を社会増が補う構造-

人口の増減は、自然増減と社会増減で構成される(人口増減=自然増減+社会増減)。図表1は名古屋市の自然増減と社会増減の推移を示したものだ。自然増減は減少が加速傾向で推移している(グラフの黄色折れ線)一方で、社会増減はコロナ禍(R2~R3)を挟んでプラスで推移し(グラフ中の赤色折れ線)、とりわけコロナ禍以降は増加傾向が顕著となり、これが自然減を補って人口増加をもたらしている。

R7年では、自然減が▲12,173人となったのに対し、社会増が19,872人と過去最高を更新した結果、7,609人の人口増加となった。自然減の拡大傾向は人口問題の根幹だが、これを社会増が補っているために問題を実感し難いのが名古屋市の実情だ。しかし、名古屋市の自然減が加速傾向にある事はグラフから明確だ。一方、H14年以降の社会増減は概ね増加基調で推移しており、これが問題の深刻度を糊塗してしまいがちだ。

名古屋市の人口動態を、日本人と外国人に分けて集計したものが図表2だ。日本人について見ると、自然増減は▲12,521の減少で、社会増減は10,533の増加であったため、人口増減は▲1,983となった。つまり、総人口だけを外形的に見れば前年比7,609人増加して堅調に見えるが、この人口増加は外国人によるところが大きく、日本人に限れば自然減の拡大を社会増で補えずに減少している事が分かる。名古屋市においても、日本人の人口減少問題は生じているのだが、こうした危機感が市民社会で語られる機会は多くない。その原因は、日本人においても外国人においても社会増加量が大きいため、問題の深掘りに至らないのではなかろうか。

2.社会増減に潜む名古屋市の人口問題  -若者の東京流出と子どもの減少-

名古屋市における社会増の構造を紐解くため、社会増減の年齢別・地域別の内訳(R7年)を集計したものが図表2だ。この中に名古屋市で構造化している人口問題が潜んでいる。図表2の①にあるように、社会増減の中で最も大きなボリュームとなっているのは国外からの増加(15,551人)だ。日本人の帰国等も含まれるが、主として外国人の転入によるものだ。また、国内の人口移動においても図表2の②にあるように中部地域から9,056人の社会増があり、主として20~29歳でボリュームが大きい。こうした外国や中部地域からの人口吸引力が、名古屋市の人口問題を楽観視する風潮に繋がっていないだろうか。

しかし、③にあるように、関東には全ての年齢層で社会減(転出超過)となっており、20~39歳でボリュームが大きい。つまり、進学期や就職期に中部地域から若者が名古屋市に大きく転入している一方で、東京へは進学・就職・転職期を通じて転出超過しているのである。幸い、中部地域からの社会増②は関東への社会減③よりも大きい(R7では約2倍)ため、あたかも名古屋市は勝ち組のように映るが、この構造は砂上の楼閣だ。何故なら、名古屋市への転入元となっている中部地域の全エリアで人口減少が進行しているからである。そのため、この先もこうした転入量を中部地域から期待する事は難しいのだ。

そしてもう一つ着目したいのは、④にあるように0~14歳が▲1,734人減少している事だ。中学生までの年齢層なので、自らの意思で転出しているのではない。親(子育て層)の転出によるものだ。30~49歳で▲810人社会減となっているが、概ね2人の子どもを伴って転出していると仮定すればオーダーとしてはつじつまの合う数値となる。名古屋市からの転出先としては、東京をはじめ、近隣地域では尾張旭市、大治町、北名古屋市、清須市、岩倉市が上位5都市(R7)であり、子育て層については隣接市町への転出という現象も念頭に置く必要がある。

このように、名古屋市には、「若者の東京流出」という問題と、「子育て層の転出による子どもの減少」と言う二つの人口問題が存在するのであり、この問題はR7年に限った問題ではなく、継続的に生じている構造化した問題なのだ。

3.二つの人口問題の原因構造  -究極的には名古屋市の付加価値額産出力の問題-

この二つの人口問題は名古屋市の将来に暗い影を落とす。図表4は、世帯年齢別の月額消費額を家計調査から集計したものであるが、20~40代にかけて消費が拡大し、40~50代にかけて最大消費が続き、60代以降で消費が縮小する傾向が見て取れる。つまり、若者(20~30歳代)は消費拡大を牽引する層であり、子育て層(40~50歳代)は活発な消費の原動力となる層である。これらの層が名古屋市からは流出しているのであり、この傾向が構造化している名古屋市経済の将来は、縮退を避けられないと考えるべきだろう。

従って、二つの人口問題には、原因究明から対応策まで真正面から向き合う姿勢が求められる。若者が東京へ流出する理由は、魅力的な活躍機会が名古屋よりも東京にあるからだと考えるのが自然だ。魅力的な活躍機会とは何か?筆者の考えは、「経済処遇と社会的貢献の両立」にあると考えている。高い経済処遇を求めつつ、仕事を通して社会貢献できる、或いは社会で認知される事を求めて若者たちは東京に流出していると見ている。それは、企業で言えばセンター機能の集積、マーケットにおける達成感で言えば高付加価値な業種の集積と置き換えて良いだろう。他稿でも繰り返し述べてきたが、マクロ経済における付加価値額と社会増減とは統計的に関係性が確認でき、付加価値額の産出力の高い産業構造を持つ都市に人口は移動している。従って、若者のやりがいを満たす活躍機会を名古屋市が創出する事ができなければ、「若者の東京流出」という構造化した問題は克服できない。

また、子育て層にとっても付加価値額の問題は密接だ。子供の成長に伴って住み替えたいと考えても、名古屋市内の新築マンションは高騰しているから通勤可能で購入し易い価格帯の住居地域を求めて転出していると考えられる。しかし、名古屋市内のマンション価格を統制する事は不可能であるから、住宅取得を求める子育て層の流出を押しとどめるためには、市民所得を上げねばなるまい。これもまた、市内産業の付加価値額の向上を図る事と同義なのだ。

しからば、名古屋市における産業の付加価値額産出力を上げるための処方箋は何か。それは、機能と業種に着目した産業構造改革だと筆者は主張している。機能とは本社機能であり、業種とは一人当たり付加価値額の高い業種を指し、これらの集積を名古屋市内で高める事ができれば、若者の価値観を満たす活躍機会が増進し、住宅取得を願う市民の所得が上がるので、名古屋市が抱える二つの人口問題の克服に奏功すると考えられる。

そして、その実現方策としては、市内で起業を促すスタートアップ支援も重要ながら、東京からの移転促進を図る事を真剣に考える必要があるだろう。この「東京からの移転」促進に向けて、実現を信じて取り組めるか否かに成否がかかっていると筆者は考えている。R5年7月に閣議決定された国土形成計画(全国計画)や、R6年12月に内閣官房が決定した地方創生2.0の基本的考え方でも「東京一極集中の是正」を中核的課題に掲げた。高市首相は人口減少を「我が国最大の問題」と掲げた。国の問題意識と軌を一にできるテーマなのであるから、東京一極集中是正の受け皿として名古屋市が勇躍して取り組む姿勢を明示すべき時だと思う。2026年の年頭に当たり、そのような議論が活性化する1年になればと願っている。

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