愛知県が「名古屋三河道路」の構想段階評価として第3回有識者懇談会を開催し、対応方針(案)を提示した。委員に招聘された筆者は、長らく構想路線として位置づけられてきた名古屋三河道路がようやく本格的な検討段階に入った事に感慨を覚えつつ、愛知県土の新たな発展段階を想起しながら議論に参画した。一宮西港道路と連続的なネットワークが形成されれば、愛知県と岐阜県の国土におけるポテンシャルが一層に上がる。
1.名古屋三河道路の概要 -モノづくり中枢エリアの物流効率向上に期待が集まる-
名古屋三河道路は、新東名高速道路の岡崎市付近から西三河地域を貫通して名古屋港ポートアイランドに至る高規格道路(延長約50km)で、その一部区間が優先区間として構想段階評価の対象となった。構想段階評価とは、概ねのルート(ルート帯と呼ぶ)やICの位置を複数案の中から検討して絞り込む段階の評価であり、道路利用者(企業や住民)や沿線自治体の意見を聴きながら検討するプロセスである。今回の評価対象区間は、名豊道路の安城市付近~西知多道路の知多市付近の区間だ(図表1)。
名古屋三河道路を広域的な高速道路ネットワークの中で眺めると、東名高速道路、伊勢湾岸道路、名豊道路の交通負荷を分散・補完するネットワークと読めるが、大きく分解すると3つの役割と貢献が考えられる。
第一は、日本のモノづくり中枢地域を形成している西三河地域の東西方向の断面交通容量を拡大する点だ。自動車関連産業の物流が集中するこのエリアでは、伊勢湾岸道路や名豊道路が担う交通負荷が大きく、平均速度が低下しがちだ。そのため、物流車両の交通を分散する代替ルートを確保する事が有効で、同時に所要時間の短縮も期待できる。
第二は、境川渡河部をはじめとする周辺地域の一般道の渋滞緩和に貢献する点だ。衣浦港へと続く境川河口部は渡河できる橋梁が限られていて、物流車両が多く流入する事と相まって交通渋滞の要因となっている。名古屋三河道路が、名豊道路のように無料の高架道路となれば、地域の人々や企業の自動車交通にとって渋滞を回避できる重要な路線となる事は間違いない。
第三は、名古屋港と直結する点だ。評価対象区間の西端は西知多道路であるから、にわかには名古屋港に直結しないが、西側への延伸によって名古屋港のポートアイランドへと接続する事が期待できる。ポートアイランドは、名古屋港の浚渫土砂処分場として出来上がった広大な未利用地であり、現状は陸域との交通ネットワークを有していない。土地利用方針もなく、所在市町村も決まっていない土地だが、名古屋三河道路が延伸するとなれば有効活用が現実的なものとなり、名古屋港の機能が一段と向上する。
2.構想段階評価の概要 -地域のニーズを聞き取りながらルート帯を絞り込む-
このように、名古屋三河道路は多くの整備効果が期待できる道路であるが、道路計画においては、市民参加型の検討プロセスが規定されており、これに従って手続きが進められる。実務的には、国土交通省が定める「構想段階における道路計画策定プロセスガイドライン」が2013年に改定され(図表2)、これに基づいてルートやICの概ねの位置を検討する過程において道路利用者(市民、企業)や自治体のニーズを聞き取り、ルート選定等に反映される仕組みとなっている。
具体的には、愛知県が複数のルート帯を検討し、各々の案の特徴を示しながらアンケート調査やヒアリング調査を実施して道路利用者のニーズ等を把握し、これらに基づく評価によって最適なルート帯案の選定を行った上でICの概ねの位置を検討するとともに、配慮すべき事項を特定していく作業となる。評価項目は、定時性・速達性、交通円滑化(渋滞緩和)、防災性などであり、配慮すべき事項としては生活環境、自然環境、景観への影響及び経済性への配慮(建設費)等について検討して比較する事となる。
地域の住民や自治体からは、一般道の渋滞緩和に寄与する道路として計画してほしいという声が強く、企業からは生産拠点が集積する地区から名古屋港などへのアクセス性を向上する計画としてほしいという声が多く寄せられた事を踏まえ、比較検討がなされた。また、既成市街地をなるべく回避する事や、自然環境への影響を少なくすることに留意すべきという観点でも検討がなされ、比較対象となった3ルート帯案の中からB案(図表3の青色ルート帯)が最適と結論付けられた。
3.名古屋港と県土発展への貢献シナリオ -ポートアイランド活用実現の引鉄に-
この名古屋三河道路の優先区間が実現する事で、さらに将来に向けたインパクトを考えておきたい。それは、名古屋港のポートアイランドへの延伸である。先に紹介した構想段階評価では、西端が西知多道路への接続までとなっているが、名古屋三河道路の全線の構想区間ではポートアイランドまでが企図されている。そして、ポートアイランドからは北方向(岐阜県方面)へ延びる「一宮西港道路」の構想もあり、名古屋三河道路と同様に構想段階評価が現在実施されている(事務局は国土交通省中部地方整備局)。つまり、名古屋三河道路と一宮西港道路はポートアイランドで接続して一体的なネットワークを形成する事が構想されているのである(図表4)。
従って、名古屋三河道路と一宮西港道路は、中部地域における広域道路ネットワークの充実強化に貢献するとともに、名古屋港ポートアイランドの有効利用を促すトリガー(引鉄)としての役割があると解す事ができる。
ポートアイランドは名古屋港の浚渫土砂処分場であるが、既に計画埋め立て量に達しており、計画埋め立て高さ5.3mを超えて16mほどにまで積み増しされている。上積み分の土砂は仮置きとされており、中部国際空港の沖合地先に移設する方向だ。2.57㎢に及ぶ広大な土地は、土地利用の需要が高まれば利用が可能だが、現時点では白紙の人工島だ。愛知県の所属未定地であり陸上交通とは結ばれていない。
一方、名古屋港は日本を代表する大規模港湾で、臨港地区(陸域)の広さ、総取扱貨物量の多さ、貿易収支の黒字額の大きさ、完成自動車輸出台数で日本一を誇っている。しかし、臨港地区の土地はほぼ稼働しており、余剰地は極めて少なくなっている。そのため、名古屋港の機能を強化して発展を目指すためには、新たな陸域を確保する必要があり、ポートアイランドはその候補地となる人工島だ。
これまで、財界からは物流拠点、エネルギー拠点、交流拠点として利用する案が提言されているが、名古屋港の長期構想や港湾基本計画にはいずれも位置づけの記載はない。利用熟度が定まっておらず、陸域との交通が確保されていない事が位置づけのない最大の理由だが、港湾機能強化の必要性が高まり、名古屋三河道路と一宮西港道路によって陸域と結ばれれば、具体的な土地利用を検討する熟期が到来すると考えて良いだろう。
財界が提言したように、広大な土地であるから様々な利用方法が考えられるが、中でも物流拠点としての利用は必須だ。その際、どのような物流拠点として利用する事が愛知県・名古屋市などの発展にとって有効なのかを想起しなければならない。筆者は2つの視点を持って検討する事が必要だと考えている。第一は輸入機能の強化に合わせた内陸輸送のハブ機能を持たせることで、第二はエネルギー拠点の形成だ。
第一の点について考慮すべき事は、ポートアイランドを利用できる時代はリニア中央新幹線が開業した国土を前提に考える必要がある点だ。つまり、東京一極集中の是正に向けた国土構造の転換期を意味するから、名古屋港が東京港の機能の一部を担う事を想定する必要があるだろう。具体的には輸入機能であり、名古屋港の物流機能における輸入拠点を形成するためにポートアイランドを活用する事が望ましい。名古屋三河道路と一宮西港道路が整備されれば、広域高規格道路ネットワークにおいて要衝立地となるため、輸入した貨物の国内輸送ハブ拠点を形成するにふさわしい。
第二のエネルギー拠点については、水素を燃料とするエネルギー拠点の形成が期待できる。水素を燃料とすれば炭素ガスの排出がないため、地球温暖化の抑制に貢献するとともにモノづくり産業への安定的エネルギー供給にも貢献できる。そして、エネルギー拠点であれば船舶やパイプラインを活用すれば稼働できるから、名古屋三河道路や一宮西港道路が完成する前から利用できることも利点だ。
このように、ポートアイランドの利用熟度を高め、名古屋港の機能を強化する事で国土における愛知県のポテンシャルを高める契機となる議論に繋がる事は大変結構な事と受け止めたい。渋滞緩和と物流効率化に期待が集まる名古屋三河道路だが、その役割は愛知県土の新たな発展段階を拓く道路としても期待できる路線であることから、検討が着実に進むとともに着工・完成に向けて円滑に進捗する事を期待してやまない。