Vol.181 全国知事会における小池都知事のお惚け発言に呆れる  -東京一極集中問題を否定する姿勢はアウト-

2024年度の全国知事会が、8月1日から2日にかけて福井市で開かれた。今回は「人口減少問題が日本の最大の戦略課題」と位置づけ、政府に対して人口戦略対策本部の設置を求めるなどの「福井宣言」が決議された。議論の途中、人口減少問題は「人口や産業が特定の地域に集中している」ことが要因の一つであると記載した部分について、小池東京都知事が削除を求めて46道府県知事から強い不興を買った。誠に呆れるお惚け発言だ。

1.人口減少問題で飛び出した小池発言  -東京一極集中問題に異を唱える怪-

全国知事会は、地域社会が抱える課題について認識を共有するとともに、有効な対策を国に要望するなどを決議する事が通例となっている。今年は、人口減少問題を「日本が抱える最大の問題」として取り上げ、東京一極集中の是正を本格的に図る必要があると、開催地の名を冠した「福井宣言」を決議する事が話し合われた。

この議論の中で、小池都知事は「人口減少問題と一極集中との因果関係は不明確だ」と発言し、「特定の地域に人口や産業が集中している」という文言を削除するよう要求した。これほどまでに惚けた物言いを堂々とする事に舌を巻く。この小池都知事発言に対しては、多くの知事から反論が相次いだ。構図としては小池都知事vs46道府県知事だったものと解される。

とりわけ、小池知事の発言に猛烈に反発したのは丸山島根県知事である。事前のすり合わせ段階では「東京一極集中」と東京を名指しせずに「特定の地域への集中」と表現を和らげたにもかかわらず削除せよと言うならば「東京一極集中と明確に記載するという事も俎上に載せるべきだ」と強い口調で反論した。惚けるなら名指しに戻すぞという姿勢だ。

また、一見三重県知事は、地方の人口問題における社会増減に着眼し、東京への人口流出が地方の人口減少と密接に繋がりがある事を理由に「東京一極集中の問題に対して何の意見も知事会から言わないという事については賛成する事はできない」と発言した。人口減少と東京一極集中には因果関係があるという主張だ。

最終的には当該文言を削除せず、東京都から「特定の地域への人口や産業の集積と日本全体の人口減少を関連付けた考え方は不明確であり、本質的な課題解決につながらないため削除すべき」との意見があったと注釈を盛り込むことで全会一致の決議となった。

2.東京一極集中の問題点と人口減少との因果関係   -若者の吸い上げと高コスト構造-

小池都知事が発言した「人口減少問題と東京一極集中の因果関係」について、その問題の構造を改めて整理しておきたい。

人口の増減は、自然増減と社会増減で構成される。自然増減は出生数から死亡数を引いた数字で、現在は出生数が少なく死亡数が多いから日本全体でマイナスとなっており、これを自然減と呼ぶ。少子高齢化問題と一体的な現象だ。一方、社会増減は転入者数から転出者数を引いた数字で、東京都を除く多くの道府県でマイナスとなっており、これを社会減と呼ぶ。これが東京一極集中に直結する問題だ。

全国の若者が進学期、就職期、転職期に東京に集まり、一度東京に行った若者が故郷に帰ることがないため、人口の東京一極滞留が構造化している。若者が東京に吸い上げられることで地方は担い手を失い、消費が落ち込み、高齢化の加速により財政運営の硬直化が生じている。20代~40代が東京一極に流出していることが地方の疲弊の主因となっている事は明白なのである。

2023年の愛知県人口で見ると、自然減が3万人で社会増が1.7万人であるから、▲1.3万人の人口減少(▲3.0+1.7=▲1.3)となっている。1.7万人の社会増ではあるものの、このうち東京都への社会減(流出超過分)は▲1.3万人で、海外からの社会増が2.6万人である事などで社会増を維持している。日本人に限れば社会減であり、その多くが東京への20~30代の流出によるもので、まさに東京に若者が吸い上げられている構造なのだ。

人口の再生産力となる若者が吸い上げられた地方で出生数が減少するのは言うまでもない。そして、地方から東京に行った若者たちは、高コストを強いられた生活の中で出産・子育てを躊躇し、東京都の出生率は全国で最も低い状況となっている。こうした循環が人口減少問題となっているのであり、「因果関係が分からない」とする小池発言は、お惚け以外の何物でもない。

更に言えば、東京の高コストは企業経営にも影響を与えており、高いオフィス賃料をはじめとするコスト負担が経営を圧迫しているから、日本企業の国際競争力を削ぎ落とす要因ともなっている。東京一極集中が日本の抱える重要問題である事は、全国知事会の認識の通りなのである。

3.歴史的に東京都知事は一極集中問題に消極的だが   -時代によって認識を変えるべき-

実は、東京一極集中の問題を否定する東京都知事は小池知事に限る話ではない。歴代の都知事が東京一極集中を問題視する論調に反論してきた歴史がある。東京都のトップとしては理解できないでもない。しかし、時代と共に問題の意味や深刻さは変化しており、現代においてもお惚けを決め込む小池都知事の姿勢には猛省が促されるべきである。

例えば、1990年代に首都機能移転問題が国会や中央省庁で喧しく扱われた事がある。この時、筆者は北海道・東北地方への首都機能移転を誘致する「ほくとう銀河プラン」の策定に携わっていた。首都機能の移転先としては、東海ブロックでは東農地域が名乗りを上げており、その他の地域も含めて全国で綱引きが展開されていた。しかし、この時の東京都のトップであった鈴木俊一都知事(就任期間1979~1995年)は、穏やかながらにも明確に首都機能移転のデメリットを説いていた。効率性が低下する事、移転・整備費用が莫大になる事が反論の主たる理由であったと記憶している。実は、「ほくとう銀河プラン」の策定に取り組んでいた筆者も、この東京都の言い分に合理性があると感じていた。結局、首都機能移転論議は消滅したのである。

また、1999年~2012年の間に就任した石原都知事は、「日本が成長し世界との競争に互していくためには東京都に首都があることが必然だ」と発言していた事も記憶している。この時は首都機能移転問題が取り沙汰されていた訳ではないが、東京一極集中問題から派生した発言であったように思う。これらの時代では、東京一極集中是正の方法論として首都機能移転が念頭に置かれたのである。

我が国において、東京一極集中問題が国土の課題として取り上げられたのは1960年代で、首都圏整備計画、首都改造計画、全国総合開発計画などで課題の中心に置かれた。この当時の問題認識は過密問題であり、通勤ラッシュや交通渋滞を解消する必要性に立脚した議論であった。しかし、東京に諸機能が集中する中で、コストが高くても日本経済は発展を続け、人口も増加を続けたため、一極集中が是正されずとも国家的問題とはならず、半世紀以上を経て今日に至っている。放置を続けた結果、経済、金融、若者、女性、外資など、多くの切り口で東京一極集中が一層に進んだのである。

中央官庁と企業本社が集中して中央集権効果が生まれ、効率的に経済成長を遂げるには奏功した。しかし、日本経済は成熟化して経済成長は止まり、様々な観点から見た国際比較における日本の地位は落下を続けている。「東京に集中すれば発展する」という時代は終焉したのだ。

そして、新型コロナウィルスによるパンデミックが発生すると、東京都は高コストに加えてハイリスクを抱えていることが顕在化し、改めて東京一極集中問題を考える契機となった。通信を利用したリモートスタイルによって場所と時間の制約を克服した経済活動が実践できることを体験した我々は、東京に縛られなくても良い国土を目指すべきだと覚醒したのだ。この事を東京都も認めて地方と認識を共有し、日本の発展に向けて望ましい国土づくりに協力する姿勢が必要だ。現代の東京都知事が、これまでの都知事と同じ姿勢を続けるのは時宜を得ていないと認識すべきだ。首都機能移転を論じようとしているのではなく、産業機能や人口の一極集中是正による国家の発展と日本人の幸せを論じようとしているのである。

小池都知事は、全国知事会の後の記者会見で、「パイの切り合いをしても発展は望めない。むしろ、いかにしてパイを増やすかを議論すべきではないのか。あそこのコミュニティ(知事会)はちょっと違う色合いだなぁと強く思った次第」と発言した。パイを増やす事を含めて、東京一極集中を是正する事が国土に求められる時代だと最後まで気づく事ができずに知事会を終えたようである。日本の首都のトップとしては残念だと言わざるを得ない。

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