Vol.70  民活シリーズ⑧ 指定管理者制度の運用改革の視点   -VFMの向上を希求して弾力的な運用を-

全国の地方自治体が導入している「指定管理者制度」。一般市民には一見して馴染みのない制度だが、実は我々の身近なところで関わりが多い。2003年(平成15年)の地方自治法の一部改正で制度化された民活手法の一つで、20年近くが経過している。行政運営上は定着した感のある指定管理者制度だが、その運用には課題も垣間見られる。その導入目的はVFMの希求にあるため、原点に立ち返ってより有効な運用方法を模索することが望ましい。

1.小泉改革の中から誕生  -外郭団体が改革のターゲットに-

全国の地方自治体(都道府県と市町村および特別地方自治体)は「公の施設(おおやけのしせつ)」を保有している。「公の施設」とは耳慣れない言葉だが地方自治法上の用語で、各自治体が条例によって設置を位置づけ、自治体の費用負担で整備した後に管理・運営することができる施設を指す。具体的には、図書館やホールなどの文化施設、プールや体育館、競技場などのスポーツ施設、公園や駐車・駐輪場などの都市施設、高齢者施設や児童施設などの福祉施設など多岐にわたっており、市民生活の様々な場面で関わりが多い。

こうした「公の施設」の管理・運営は、地方自治体が直接行うか外郭団体に委ねるかに限定されていた。従って、大規模な施設や拠点的な公の施設の場合は、これを管理・運営する外郭団体の設立とセットで整備されたものも数多く存在しているし、市内に何カ所も整備される施設の場合には、これを一括して担当する外郭団体が設立されるなどして管理・運営業務にあたらせることも多かった。

しかし、その実態は、設備のメンテナンス、清掃、警備、受付業務などを細分化して外部委託され、管理・運営の現場のほとんどの領域を民間が担当している場合が多かった。こうなると、外郭団体は民間に業務を発注する団体に形骸化しやすく、結果的に費用が嵩む割にはサービス水準が低いという状況に陥っていることが懸念された。

小泉内閣では、郵政改革を筆頭に「民間にできることは民間で!」というキャッチフレーズで民活を推進したのだが、その一環で「公の施設」の管理・運営にも白羽の矢が当たった。これまで地方自治体の直営か外郭団体による管理・運営に限定されていたものを、民間企業やNPO法人、市民グループなどにも委ねることができるように改革し、多様な主体による競争原理の中で適切な団体を指定するよう2003年(平成15年)に地方自治法を一部改正したのである。これに全国の地方自治体の外郭団体には激震が走った。

2.全国の自治体に走った衝撃とその後   -財政負担の縮減に寄与した20年-

筆者は、件(くだん)の地方自治法一部改正の動きを受けて、全国の地方自治体の外郭団体の現状を把握する調査に従事した。この時の調査で印象的だったのは、外郭団体のコスト構造である。外郭団体の年間予算の内訳は、職員人件費が4~5割、外部委託費が3~4割、需用費(光熱水費等)およびその他費用(旅費、消耗品費、修繕費等)が残りの1~3割となっていた。最も多い予算を占めていた人件費について、同種の業務を行う民間企業の人件費相場と比較すると、官民格差(官÷民)=1.5~2となったのを強烈に記憶している。つまり、同じ仕事をした場合の人件費は、官は民間の2倍かかる場合があるということだ。外郭団体の人件費は官庁人件費と同等だから、この官民格差は外郭団体にも当てはまる。仮に、職員人件費が年間予算の5割を占めている外郭団体があって、その業務の官民格差が2倍の状況だとすれば、外郭団体から民間に置き換わるだけで、必要な予算を年間で25%削減できることを意味した。

こうした状況だったから、全国の地方自治体及び外郭団体には衝撃が走った訳だ。つまり、民間との競争にさらされた場合には、コスト面で勝ち目がない外郭団体が続出する恐れに直面したからだ。このため、全国の地方自治体は、外郭団体に対して強く経営改革を求めて指導した。人件費を縮減するために職員報酬単価を引き下げたり、配置人員数を削減するなど、苦しくて厳しい経営改革が各地で取り組まれた。

地方自治法の一部改正による指定管理者制度は、法改正が行われた2003年(平成15年)から3年間の移行期間を経て本格導入することとされたため、この3年間の間に外郭団体の経営改革が取り組まれ、少なくともコスト面で民間との競争力を保持できるようにスリム化を目指した。この結果、戦える状況を得た外郭団体は「公の施設」の管理・運営主体としての地位を死守したが、民間企業に置き換わった事案も全国で続出した。悲喜こもごもの結果を生んだのであるが、いずれにしても予算の削減には大きく寄与し、地方自治体にとって行財政改革の視点で見れば大きな成果を成し遂げていくこととなったのである。

3.運用面での改革の視点   -VFMを希求して弾力的な運用の模索を!-

指定管理者制度が導入されてから20年近く経つ現在、全国の自治体では4期目の指定管理者公募の局面を迎えている事案が多い。筆者は、公募に際して設置される選定委員会に多く参画してきたが、その経緯の中でいくつかの課題を実感している。各課題と対応策案を以下に指摘したい。

第一は、モニタリングだ。指定管理者の業務実態について、行政側は所管課がモニタリング(監視と評価)を行うのだが、モニタリング結果を見ると不備の指摘が目立つ。不備を指摘するのは当然必要な事であるが、同時に指定管理者が創意工夫をして汗をかいた事項があれば誉める必要もある。モニタリングは不備指摘と賞詞(しょうし)の両面でバランスがとれていなければならない。そして、モニタリング結果は一般公開されるべきだ。こうすることで、不備指摘を受けないように緊張感のある取り組みを促すし、努力した結果が賞詞として報いられれば指定管理者のモチベーションに繋がる。そして、その内容が公開されることで、次の公募時に実績面の評価をする上で参考とすることが可能となり、公正な競争環境に寄与する。

例えば、名古屋市の公の施設Aを担っている現在の指定管理者aは、期間満了後の公募に応募する際に名古屋市A施設の実績を強く訴える。一方、横浜市の同種の公の施設Bを担っている指定管理者bがこの公募に競合者として応募した場合には、横浜市B施設の実績を訴えるであろう。この時、名古屋市と横浜市がモニタリング結果を公開していれば、指摘事項が多いのか賞詞が多いのかなどを知ることが出来るため、選定委員会は実績面での評価において参考にすることが可能となる。このことで、競争環境が活性化(他地域の事業者の新規参入が促進)されることになろう。その延長線上にサービス水準の向上が見込まれる。モニタリングルールをしっかり作って一般公開することが重要だ。

第二に、任意指定の取り扱いだ。任意指定とは、公募で指定管理者を選定するのではなく、特定の団体に指定管理者を非公募で指定することを意味する(随意契約と同種)。民間事業者等に仕事を委ねる際には、地方自治法では公募が原則とされているから、指定管理者の選定もほとんどが公募となっている。しかし、公募はあくまでも市場性があることを前提とする。従って、何回公募しても同じ事業者しか応募がないような事案は、募集条件に無理があるか、市場性がない可能性があると考えねばならない。そして市場性がないと判断される事案は、任意指定に切り替える勇断をした方が良い。さすれば、任意指定を受けた事業者は、長い目で人材育成が出来たり、投資が出来たりするから、今まで以上の成果を出せる可能性が広がる。同時に、所管課も公募に係る事務量が減るから行政側の働き方改革につながろう。行政の慣習に任せて公募だけに拘るのではなく、弾力的な運用が必要だ。

第三は、指定管理者選定委員会の委員構成だ。委員は選定時の審査者となるのであるが、有識者として大学に属する学識者、弁護士・公認会計士等の有資格者、関連業界の代表者、経験豊富なコンサルタント等で構成され、その全てが外部からの招聘者となっている場合が多い。しかし、こうした外部の有識者は、提案書を読み込む深度が深くはならない場合もある。むしろ、行政職員の方が提案書を深く読み込むし、複数人で読み込んで内容を確認するので読み込みの正確性が高い。読み込み深度が深い人材が選定委員として議論に参加する方が当然にして健全だ。そのためには、部長級の行政職員を選定委員に入れておくことが望ましい。行政職員が選定に直接絡むことを極端に回避しようとする自治体が多いのだが、読み込みの甘い外部委員だけに委ねるのはむしろ危険で、これは正した方が良いだろう。

いずれにしても、指定管理者制度は財政負担の縮減には大きく寄与してきた。しかし、コストの削減はいつまでも続くものではなく、当然にして限界がある。そこから先は、いかにサービス水準を高めるかに重点が置かれるべきだ。他稿でも指摘しているように、民活の本源的意義はVFMの希求にある。安くて良いサービスを獲得することだ。しかし、安さだけを追求する時代は終わりつつある。より良いサービスを求めた上で合理的な予算と判断されれば、これを選択する姿勢がその自治体のシビックプライドの向上を培う。こうした観点に立って、指定管理者制度の運用の在り方に改革のメスを入れて頂きたいと願っている。

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